日本の「全国学力テスト」は失敗…? 専門家が指摘する“知られざる”実態

「教育格差」の“見て見ぬふり”は許されない
川口 俊明 プロフィール

今の「全国学力テスト」、やめませんか?

筆者の言いたいことは、ごく簡単だ。今のように、何を測っているのかよくわからず、社会的属性の情報も取得しないような学力テストを続けるのは止めて、実態を把握するための学力調査を始めるべきだ。社会的属性を例にとると、最低でも保護者の学歴や年収,本人の性別(ジェンダー)といった情報は把握する必要がある。

もちろんハードルは低くない。いい加減な学力テストをすることに慣れてしまったために、今の日本には学力調査の設計・分析に関する専門的な知見を持った人材がほとんどいない。人材の育成・雇用というレベルから話を始める必要がある。

 

加えて現在のように、調査を実施する主体と政策を実施する主体が同じでは、調査結果を歪めた方が良いというインセンティブが発生してしまう。淡々と教育の現状を調べる組織を、政策立案を行う部署とは別に作らなければならない。

このような改革は容易ではない。しかしそれをしなければ、いつまでも日本は「改革のやりっ放し」から抜け出すことはできないだろう。

つい先日行われた全国的な学力調査に関する専門家会議では、全国学力・学習状況調査の再編の方向性が示された。*9今回示した問題点が改善されるかどうかはまだわからないが、今後の展開を注視する必要がある。

【注】
*1 川口俊明、2019、「国は目先ではなく、10年先を考えよ 問題点だらけの全国学力テスト」『中央公論』2019年11月号、pp.162-169に掲載したグラフの再掲。

*2 松岡亮二、2019、『教育格差』筑摩書房。

*3 断っておくが、学校教育や就学援助という制度に意味がないと言いたいわけではない。仮に学校やそうした制度がなかったとしたら、家庭環境による学力の差は今よりもっと大きくなるだろう。

*4 保護者の学歴や年収、あるいは本人の性別やエスニシティなどのことを指す。

*5 これらの情報は、PISAを実施する経済協力開発機構のウェブサイトに公開されている。(https://www.oecd.org/pisa/

*6 国立教育政策研究所ウェブサイト(https://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html)を見てほしい。

*7 前掲書『教育格差』の第7章などが参考になる。

*8 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68206

*9 https://www.kyobun.co.jp/news/20210322_06/

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