なぜファン以外にも届いたのか?
そもそもブームになるのは、大雑把に言って「アーリーアダプターが観る→口コミが波及して一般層まで広がる→口コミがさらに広がる→観ることがステータス化する」の流れを辿るものが多い。
ただ本作においては、ここでいうアーリーアダプターがちょっと複雑だ。というのも、「坂元裕二作品だから」「菅田将暉・有村架純出演作品だから」「土井裕泰監督作品だから」といったキャスト・スタッフが観賞の動機になるのはあくまでファンであり、そこからファン以外に広がっていく構図というのはなかなか難しいから。
これがホラーやサスペンスといったいわゆるジャンル映画であればまた話は違ってくるのだが、『花束みたいな恋をした』は純然たるラブストーリー(しかも最初から破局が明示されている)であり、「なんだか突拍子もないものが観られそう」というような形で観賞意欲をあおるタイプの作品とは異なる。
しかも、坂元が脚本を手掛けた映画は『西遊記』以来約14年ぶり。近年は舞台活動も精力的に行っているが、彼の主戦場はやはりテレビドラマであり、映画脚本を担当した際にどこまで集客できるかは、なかなか予測がつきづらかったのではないか。
テレビドラマは「家にいながら無料で楽しめる(配信で観る場合は、視聴タイミングも自由だ)」点に特性があり、ユーザーの視聴ハードルが低い。当然ながら映画はその逆だ。
また『花束みたいな恋をした』はドラマの劇場版ではないオリジナル作品のため、積極的に劇場に向かうのはよりコアなファンに絞られる形になるだろう(コロナ禍で足が鈍るといったこともある)。