「童貞いじり」「ゲイ疑惑」に潜む女性蔑視
マイケルは以前から、ささやくような話し方やメイクをほどこした顔、そして女性との恋愛スキャンダルがあまり流れないことなど、いわゆる「男らしい男性像」を体現していなかったことでセックスライフに関心をもたれることが多かった。
彼に限らず、外見や仕草がフェミニンだったり、ファン層が主に女性がメインだったりする男性歌手──つまり、「分かりやすい男らしさ」を持ち合わせていない男性は、セクシャリティに関して勝手な憶測が飛び交いやすい。この10年間を振り返っても、ジャスティン・ビーバー、ハリー・スタイルズ、ショーン・メンデスといった男性歌手に対し、「ゲイ/バイセクシャル疑惑」といったセクシャリティを揶揄するような報道がなされている。

ここで見逃してはいけないのは、こうした「男らしさ」を持たない男性へのハラスメントには、その根底に女性蔑視が潜んでいるということだ。
「男らしさ」という概念には、女性を自分のモノにしているか、または女性を排除した男性ホモソーシャル内で支持を得ているかなど、そうした女性を軽んじる暴力性をはらんでいることが往々にしてある。
一見同じに見える「処女いじり」と「童貞いじり」だが、男性との性経験値が増えるほど蔑視の対象になりやすい女性と、女性との性経験値が増えるほど称賛の対象になりやすい男性という構図からも、そんな一面が見て取れる。
マイケルの「傷の深さ」が意味するもの
マイケルは2001年に、自身にまつわる噂についてこう語っている。
「エルヴィス・プレスリーやビートルズ(といった白人アーティスト)の記録を破った途端、人々は僕を変人、同性愛者、児童虐待者、肌を漂白しているなどと言い出した。鏡を見れば分かる、僕は黒人だ」
音楽業界やメディアにはびこる黒人差別について声を上げるとともに、自分自身へのハラスメント的な報道も人種差別が根底にあることを示唆していた。黒人アーティストがグラミー賞の主要部門を獲りづらいといった風潮は現在も根強くあり、彼への好奇な視線や過剰なゴシップ報道に人種差別が作用していたことは決して否定できないだろう。
ただ、同じ黒人アーティストの中でも、マイケルのスキャンダルはとりわけ傷が深いように見える。