証券業界の既得権者たち
また現在の証券取引には数々の既得権者が存在します。
これも歴史的な背景があり、かつては証券取引所に誰もが売り買いをするために集まることができないという物理的な制約がありました。しかし、証券取引所は20年も前にコンピューター(以降、CP)化しており、さらにITが発達した今、誰もが証券取引所にアクセスすることは技術的に可能になっています。それでも、証券会社を介することでしか私たちは取引ができません。

これが既得権者と一般投資家の間に大きな情報格差を生み出しています。例えば、取引所に直接参加できる証券会社は、売り買いの注文状況である全ての「板」を把握することができますが、証券会社によって一般投資家に開示される「板」は一部でしかありません。
こうした不公平感は、超高速取引(HFT)によって近年ますます高まっています。
HFTが登場したのは2000年代の初頭でした。NASAの優秀な技術者がウォール街にやってきて、過去の統計に基づいて株を自動売買するプログラムを開発し、「アルゴリズム取引」ともてはやされました。プログラムが洗練されていくと、数多くのHFT業者が台頭して、彼らはCPに情報を取り込むスピードを競うようになりました。
ところがこれが取引の不公平をますます助長していきます。例えば、米大統領選挙の情報など株価に影響を与える報道がされたとき、売りや買いの方向性を瞬時に判断して、高速回転で取引ができるHFTに、個人投資家の取引は大きく左右されるようになりました。
しかし、取引所はこれを規制せずに、むしろ加担していきます。取引所のシステムサーバーに近い場所に自社のサーバーを置きたいHFT業者のために、取引所は「コロケーションサービス」をはじめます。ケーブルの長さの数センチの違いでも、HFT業者の間に情報を取得するスピードに差が出るため、システムサーバーにより近い場所は高額に設定されました。高速取引は、証券取引所に不動産ビジネスの利益をもたらす一方で、一般投資家の利益は蚊帳の外に置かれてしまいました。