なぜオルタナ右翼はマンガのカエルを「神」として担ぎ上げたのか?

「カエルのぺぺ右翼化事件」を考える
小森 真樹 プロフィール

ミームというネット文化

本作についてはすでに制作関係者へのインタビューがいくつか公開されている(記事)。それらを見ると、監督アーサー・ジョーンズは本作に二つのねらいを込めたようである。

一つは、ぺぺが差別的な人々に奪われた経緯と、作者による本当のぺぺとはどのようなものだったのかを記録すること。もう一つは、ミームというネット文化が政治や現実を変える力を持っていることの「希望」と「危うさ」の両面を伝えることである。

インディペンデントのコミック『ボーイズ・クラブ』でぺぺを生み出したマット・フューリーは、あくまで自分の作品を広めたいという意図で、ネット上の個人サイト「マイスペース」にコミックをアップロードしていた。

彼はまさかキャラクターだけが一人歩きするとは思ってもいなかった。ぺぺがネットでかなり有名になるまで「ミーム」という言葉さえ知らなかったほどだ。

作者フューリー氏とオリジナルペペ(出典:CBC.ca)
ヘイト版ぺぺの例。ナチスの鉤十字やKKK、日本軍の姿も(出典:TheHill)
 

無数の人々の手で改作されたぺぺが掲示板サイト4chanやインスタグラムなどで流通し始めた時、当初はフューリーや友人たちはぺぺが有名になって嬉しいと素朴に受け止めていた。

しかし、気がつけばあれよあれよという間にぺぺは変貌を遂げる。4ちゃんねらーは自分の孤独を代弁する「負け犬」キャラとして、セレブらインスタグラマーはいいねを獲得するためのカワイイキャラとして、ぺぺを投稿する。

とくに、2014年サンタ・バーバラでエリオット・ロジャーが六人を殺害した銃乱射事件以降、ぺぺには反「ノーミー(=リア充)」のイメージがつきまとうようになった。

インセル(=非モテ)掲示板での犯人の書き込みに共感した人々が、銃で武装するぺぺの画像を投稿することで次々に支持を表明したのである。そしてついには、デマニュース論者たちに利用され、ナチスや白人至上主義のヘイトシンボルへと進化していく。

今やこのカエルは、ユダヤ人団体の「名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League, ADL)」が差別アイコンに認定し、リベラルな全国紙が名指しで批判する悪名高い存在となった。フューリーが意を決してペペの奪還に乗り出した頃には、ペペの名誉を取り消すためには法廷係争さえ必要な状況になっていた。

映画を観て一番恐いと思ったのは、さまざまな歯車が噛み合っていき、作者の手に負えないほどにイメージが暴走するところだ。

出来の良いアニメも駆使し、当事者の証言や報道・サイトの投稿など豊富な材料がテンポよく見せられると、ネット上のイメージに乗って人々の欲望が巨大化していくプロセスがまざまざと伝わってくる。可愛らしいペペに抱く「愛情」を凌駕するように、自分を卑下し、敵意剥き出しで攻撃するぺぺの「悪意」が爆速で広がっていく。それがまた恐ろしい。

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