なぜオルタナ右翼はマンガのカエルを「神」として担ぎ上げたのか?

「カエルのぺぺ右翼化事件」を考える
小森 真樹 プロフィール

ぺぺがネットミームとしてこれほどまでに普及したのはなぜだろうか? まずは〈アイコン〉画像という側面から考えてみよう。

ペペが簡単に模倣(=ミーム)できるイラストであるという点は、複製・改変・パロディの便利な素材として機能しただろう。4chanという画像掲示板で爆発的に広がったように、そのシンプルなデザインはネット上のコミュニケーションと相性が良いものだった。

レイドバックなぺぺのキャラは、反エリート的・大衆的な愛すべき存在として自己投影もしやすかった。曖昧な表情は、テキストと合わせれば発信者のメッセージを語らせやすかった。曖昧さは改変しやすさにもつながり、感情を変えた別のバージョンも無数に作られた(下の樹形図)。

つまり、ペペは「誰でも容易に参加できる」感情の容れ物として、多くの人々を巻き込むことができたのである。

オリジナルぺぺが小便をしながら言い放った「フィールズ・グッド・マン(気持ちいいぜ〜)」の台詞は人々を魅了した。しかし、「ミーム」としてのぺぺは、むしろこの言葉の持つ感情から切り離され、〈アイコン〉として駆動したのではないだろうか。だからこそ、ジョーンズ監督がフューリーと共に「ぺぺ」を取り戻すために作ったこの映画につけたタイトルは、オリジナルぺぺによる決め台詞なのである。

ペペ進化の樹形図(出典:KnowYourMeme)
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「アイコン」を「イコン」に昇華するネットコミュニケーション

イメージの力で、ぺぺはネット空間で人々が集う「中心地」となった。その一方で、政治や差別思想のイデオロギーとも結びつきつつ、現実へ飛び出していく。ここからは、〈アイコン〉が〈イコン〉へ、「技術」が「魔術」へと進化する過程を追ってみよう。

広く流通したこのミームを見てほしい。自由の女神の顔をしたマリアがトランプのイエスを抱き抱え、それらをぺぺたちが見守っている。

元画像はイタリアの画家ドゥッチョ・ディ・ブオニンセーニャの《マエスタ》という14世紀の絵画(出典:kekistanreborn.fandom.com

驚くべきことに、文字通りの聖像、つまり〈イコン〉のペペが作られたのだ。ネット上でオルタナ右翼たちはネットスラングとミームで「ペペ=トランプ」を祀り上げ、白人至上主義や反ユダヤ主義の守護神「ケーク(kek)」と名づけた。冗談めいたSNSの「祭り」を通じて、「神」が創造されたのである。

kekとは、「(笑)」を意味するネットスラングだ。同じ意味の「lol=laughing out loud」の同類で、韓国語のオノマトペに由来する。当初はゲーム界隈で使われていたが、オルタナ右翼界隈の陰謀論的な想像力で進化を遂げた。彼らはネット検索を繰り返すなかで、古代エジプトには、Kekと英語表記される神がいることを発見した。しかも、グレコ=ロマンの時代になるとその神はカエルの姿へと変化していたのである。

オカルトや陰謀論的な思考には、一見結びつきのない情報を執拗に集め、論理を飛躍させることによって「創造」を行うという特徴がある。この他にも4chanでキリ番を踏んだ時のメッセージがトランプだったのは奇跡だとお祭り騒ぎになったりもしている。

さらに、「神話」さえ語られるようになる。それらは「聖書の創世記」のようなまとまった物語ではないが、ぺぺやケークにさまざまな設定が与えられ、共同編集できるファンサイトなどに歴史が書かれる(記事)。

それらがミームを通じて徐々に進化しながら流通していくような感じだ。こうしたイメージの運動の中心で、彼らをハブのように結びつけているのが、「ペペ」という〈アイコン=イコン〉なのである。

おりしも2016年、大統領選の季節はアメリカ社会が政治に沸いていた。さらに、強い政治力学がぺぺを巻き込んでいく。ドナルド・トランプは、当初泡沫候補的な扱いをされながら共和党代表選に出馬した。4chanではさっそくジョークのネタにされ、トランプの髪型をしたぺぺが登場した。

しかし、これが選挙戦に利用されることとなる。トランプ陣営のデジタル対策担当「ルック・アヘッド・アメリカ」のマット・ブレイナードは「トランプは現実世界のぺぺ」と位置づけた。トランプもまた〈アイコン〉化されたのである。

トランプがツイッターを最大の言論武器とすることは大統領就任以降誰もが知るところとなったが、SNSなどネット文化の活用は、この時すでに選挙の戦術として創案されていた。

トランプ自身もぺぺ画像をリツイートし、演説で「ぺぺ・トランプ」の真似をすると、ネット空間ではオルタナ右翼らが湧いた。ネット上で生まれたアイコンは、白人至上主義者たちのデモの現場でも使われるようになる。

冒頭で紹介したKがあしらわれた緑の旗は、架空の国家「ケキスタン」の国旗である。ナチスを元ネタにしたデザインに排外主義思想が表れている。ミームが現実を先導する、ハイパーリアルな状況である。

(出典:ABC7 News)

冗談のような話のように聴こえるかもしれない。当初は本当に冗談だった。それが次第にシリアスな力を持ち、ついには、連邦政府襲撃にまで至らしめてしまったのである。

逮捕者の中には、ネット空間の感覚を引きずって現実味がないのか、社員証を首に下げて参加したり、その様子をSNSに投稿したりと、軽いノリで参加したような人々も目立った。ここにきてまでも冗談とシリアスが入り混じっているのか、その感覚に驚かされた。

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