なぜオルタナ右翼はマンガのカエルを「神」として担ぎ上げたのか?

「カエルのぺぺ右翼化事件」を考える
小森 真樹 プロフィール

ぺぺの右翼化事件には、ミームが持つ二つの力が見てとれる。「イメージの力」と「人々に擬似共同体を与える力」である。ぺぺは、ネット〈アイコン〉の運動の中心であり、トランピズムと白人至上主義「信仰」のための〈イコン〉でもある。

フューリーは2017年、作品内でぺぺを葬った。それは、オルタナ右翼に盗まれ彼らの「文化」になった「ミームのぺぺ」と訣別するためである。

2017年、作者フューリーはオルタナ右翼の偶像と化したペペを作品内で葬った。
 

「文化装置」を見る――右でも、左でもなく

人々が〈アイコン〉に欲望を乗せ、ネットのコミュニケーションがその力を肥大化して〈イコン〉へと昇華する。監督ジョーンズは、ぺぺのことを「文化的な複製装置」と呼んでいる。

右翼化事件でぺぺは極右に利用された。しかしこれは、ある条件の下でたまたま起こったことである。

筆者はこの事件について、極右によるミームの悪用を糾弾することよりも、アイコンという「文化装置」がどう使われたのか、どのような条件で機能したのかについて検証することの方がより重要だと考えている。(もっともヘイトを糾弾し続けなくてはならないのは言うまでもないが。)ネット空間は右翼だけが支配しているわけではないし、イデオロギーと方法を安易に結びつけて考えない方が良いからだ。

そんな風に思っていたら、その後2019年の香港民主化運動でぺぺが連帯を示すアイコンにもなったと知った。イデオロギーでは対極にあるオルタナ右翼と民主化運動、両方のアイコンとして機能したのは、先に論じたようにイメージの容れ物としての力が強いからだと思う。

香港民主化運動にもぺぺが登場した〔PHOTO〕gettyimages

現代のアメリカ社会を理解するために、人種、ジェンダー、経済格差、社会問題などを「分断」や「敵/味方」のロジックで語る事は常套句と化している。「右/左」ではなく「1%/99%」だ、「リベラル/保守」ではなく「ローカル/グローバル」だ……など、理解するための様々な対立軸が盛んに叫ばれる。

しかし、こうした構図はあくまで理解の出発点と考えることが肝要だ。その枠組みから始めて、内部の複雑さや「対立」形成のプロセスを考察することが重要である。

「分極化」や「党派」の構図で単純化してしまいがちなものの内実には、ジョークや笑いやコミュニケーションを介して雪だるま式に巻き込まれている人々がいる。ぺぺの一件でもこうした展開が見られた。

人々がどのように参加しているのかを精度を上げて捉えることが重要である。さらには、人々を巻き込む仕組み、つまり「文化装置」を準備する者の存在についても考えておく必要があるだろう。最後にこのことも確認しておこう。

例えばそれは、フェイクニュースを発信するメディアを運営する人々である。映画内でフューリーから訴えられたアレックス・ジョーンズによるインフォウォーズ、トランプ政権の元首席補佐官スティーヴン・バノンによるブライトバート・ニュースはよく知られた例である。彼らは、ぺぺをハイジャックし、オルタナ右翼の発展のための「装置」を準備することに成功したのである。

大統領戦討論会でトランプが「待機せよ(Stand back and stand by)」と犬笛を送って話題になった白人至上主義団体プラウド・ボーイズもいる。死者が出たシャーロッツビルのデモ衝突事件でのへの関与も疑われ、ヘイトや暴力行為でFBIにも危険団体に認定された組織だ。

彼らが利用したことで有名になった「装置」は、ファッションである。黒地に黄色ロゴのフレッド・ペリーのポロシャツをユニフォームにしていたので、会社側は困った。結局アメリカ国内では同モデルの販売を停止し、多様性のシンボル「レインボーカラー」の新作を発売した。これもまた、文化装置が盗まれ、取り戻そうとするという「綱引き」の話なのである。

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