今年二月に森喜朗元首相が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などの女性蔑視発言が原因で五輪組織委員会の会長を辞任したことは記憶に新しいが、近年、このようなシニア世代の「暴走」を目にする機会が増えている。

2021年2月4日の謝罪会見も「謝罪になっていない」と批判を集めた〔PHOTO〕Getty Images

つい先日も、森氏と同じく80代であるDHCの吉田嘉明会長が、兼ねてより氏が繰り返している在日コリアンへの差別発言を番組で取り上げたNHKに対して、「NHKは日本の敵です。不要です。つぶしましょう」などの信じがたい声明を出したことに、多くの批判が集まった。

森氏や吉田氏の発言そのものも驚くべきものであるが、私が最も危機感を覚えるのは、このような「暴走」に自分自身で気づくことすらできないレベルで時代遅れの価値観にとらわれた人たちが、政治にしても企業にしてもリーダーという立場に居座り続けているという「世代循環」の問題だ。

世代循環の遮断。日本社会の未来を左右するこの問題は、政治や企業に限らない。私は日本やアメリカ、ヨーロッパを中心に長年研究職を続けてきたが、私のよく知る日本の業界もいま、世代循環の危機に瀕している。

研究できない若手研究者たち

先日、以下の内容のメールが日本から届き、私は愕然とした。

「現在、本研究領域で将来構想を進めているが、10年後、20年後に業界の中核を担う40歳以下くらいの若手の参加が大切になるので、参加を促して欲しい」

このメールは、私の関係する研究分野において業界をリードする立場にあるシニア研究者から業界のメーリングリスト宛に送られたものであるが、一見すると世代循環を促しているかのようなこのメールは、研究業界の実情を知る立場から見ると、若手への無責任さに溢れている。

このメールのどこに私が無責任さを感じたのか。その説明のためにまずは、私の知る範囲の日本の研究業界の惨状を紹介したい。