名古屋市長選は、11日に公示され、4選を目指す河村たかし氏と元市議の横井利明氏が事実上の一騎打ちの様相で、25日に投開票が行なわれる。
選挙に強い河村氏だが、今回、推薦は減税日本だけ。対する横井氏は自民、公明、立憲民主、国民民主の推薦に加え、共産が自主的支援で包囲網を敷かれた格好だ。
加えて河村氏は、偽造事件に発展した大村秀章・愛知県知事へのリコール署名を支援した責任を問われている。もちろん河村氏は事件への関与を否定しているものの、リコール運動を事実上、リードしてきただけに、道義的責任は残る。

前代未聞の不正はなぜ起きた?
それにしても、約43万5000筆のリコール署名のうち、8割以上の約36万2000筆が偽造で無効の疑いがあるという前代未聞の不正は、誰がなぜ行なったのか。
民主主義を破壊する行為であるのは疑いなく、県選挙管理員会の告発を受けた愛知県警が、現在、捜査2課の捜査員を大量動員して解明に当たっている。
「署名偽造が、誰の指示により、どのような過程で行なわれたかの目星はついており、被疑者も特定できている。市長選への影響を考え、着手は控えてきたが、選挙後のゴールデンウィーク明け、強制捜査に乗り出すことになる」(県警関係者)
署名偽造の主たる会場は佐賀市の佐賀県青年会館。昨年10月、ここに述べ1000人のアルバイトが集められ約10日間、リコール用紙に住所氏名を書き写す作業が行なわれた。
作業を発注したのは「愛知100万人リコールの会」の事務局で、昨年10月19日、田中孝博事務局長が署名捺印した「スタッフ代行手配」の発注書が、受注した広告代理店から県警に提出されている。金額は474万6500円だった。
事件は、2019年、名古屋市内で開かれた国際美術祭「あいちトリエンナーレ」の展示を問題視した「高須クリニック」の高須克也院長らが、実行委員会会長だった大村知事に行なったリコール要求を端緒としている。
リコールに必要なのは約86万6000筆で、偽造して8割以上水増ししても半数をわずかに超える程度。なぜ、そこまで無理を重ねる必要があったのか。
それを知るには、あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」と、そこで発生した「表現の自由」を巡る果てしなき論争と、その後始末を利用した政治家たちの思惑を理解する必要がある。