麻生大臣の原発処理水「飲んでも何てことはない」発言に決定的に欠けていたもの

原田 隆之 プロフィール

麻生発言の何が問題か

さて、ここまで読んでいただいた方は、麻生発言の何が問題かがもうお分かりいただいたのではないかと思う。

あの発言は、たしかにエビデンスを重視しており、一見EBPを実践しているように見える。しかし、実はEBPとは最も乖離した態度であり、まさに「エビデンスで殴る」ような発言なのである。

 

この場合、殴られたのは福島の人々、漁業関係者、そして不安を抱く一般の国民などである。科学的根拠に基づけば、たしかに処理水は安全なレベルなのだろう。国際原子力機関(IAEA)もそのことは強調しており、今回の日本政府の意思決定を支持している。また、海洋放出に強く反対している韓国や中国も、実は同レベル以上の原発処理水を海洋放出している。しかし、何も問題は発生していない。

だからといって、エビデンスを錦の御旗のように振りかざし、関係者の気持ちや不安に対して聞く耳を持たないような態度は決して許容されるべきものではない。科学的にはどれだけ安全であっても、風評被害が生じれば漁業は甚大な打撃を受けるだろう。風評被害というのは、まさにその名のとおり、実害はなくても人間の不安な心理に基づく被害である。エビデンスだけでは物事は解決しないのだ。

だとすると、やはりエビデンスは重要であるが、それだけを振りかざすのではなく、不安を抱える人々に丁寧に説明を繰り返し、その気持ちを汲み取ったうえで最終的な意思決定をする必要があるだろう。つまり、そこで問われるのは「臨床技能」である。政治家で言えば、国民と誠実に対話したり、説明したりするコミュニケーションの技能が求められる。

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