Appleが「利用者のプライバシー保護」を強化する「戦略的理由」

Facebookは猛反発!
宇田川 敦史 プロフィール

Facebookの売上構成の95%以上は広告収入であり、FacebookやInstagramといった自社運営のSNS上だけでなく、Audience Networkを介して他のアプリ上でも、IDFAを活用した広告枠を提供して大きな収益を得ている。しかし、IDFAの利用が減ってしまえば、そもそも他のアプリ事業者がAudience Networkの広告枠を利用する必要性がなくなり、独自の広告枠に切り替える可能性も出てくる。

出所:総務省(2019) 令和元年度 情報通信白書

一方Appleの収益構成を見てみると、およそ8割がiPhone、Mac等のハードウェア、1割強がAppStoreの手数料やApple Music等のサービスである。Appleから見れば、iPhoneのユーザーの利便性や信頼性を高めることが、iPhoneの販売数を伸ばし、AppStoreの利用者数を増やすという収益の向上につながることになる。

 

もちろんAppStoreに多様な無料コンテンツが揃っていることも重要であるため、広告ビジネス自体を否定するわけにはいかないのだが、Facebookと同様広告ビジネスへの依存度が高いGoogleに対抗するという意味でも、「利用者保護」を前面に押し出すことでより競争力が高まると判断した、というのが実態ではないだろうか。

ちなみにそのGoogleは、Facebookのように表立った抵抗は示していない。自社がiOSで展開するGoogleマップなどのアプリについては、今後IDFAを用いた追跡をしないと表明しているが、Android上でのデータ収集に関してはまだ方針を明確にしていない。GoogleはFacebookと異なり、アプリよりもWebでの広告収益の割合が高く、アプリもAndroidが主戦場であるため、ここでAppleに対抗するのは得策ではないということかもしれない。

アーキテクチャ変更のインパクト

このように見てみると、必ずしもAppleが「正義」で、Facebookが「邪悪」だということではなく、どちらも自社のビジネスを拡大し競争優位に立つための戦略的な選択をした結果だということが読み取れる。「GAFA」と一括りにされがちな大手プラットフォーム企業もその収益構造や業界内のポジションは異なり、「寡占によって競争を阻害している」側面もある一方で、GAFA自身が熾烈な競争のさなかにいることもまた事実なのだ。

今回の事例で皮肉なのは、欧州で適用されたプライバシー規制や、米国で議論されている寡占批判よりも、プラットフォーム企業自身によるアーキテクチャ(IDFAのような仕組みによる規制を指す)の変更の方がより直接的なインパクトと実効性を与えてしまうという現状だ。

プラットフォームによる「プライバシー」の問題は、これまで特に欧州で強い批判が起こり、近年ではGDPR(EU一般データ保護規則)と呼ばれる法的な規制によって、個人情報取得の明示的な同意や域外移転の禁止など強い制約が課せられるようになってきた。今回Appleは自らそれ以上に踏み込む規制を、仕組みのレベルで課したことで、一気に高い実効性を示したことになる。

また米国では、反トラスト法(独占禁止法)に基づく「GAFA」の寡占による競争の阻害に批判が集まっているが、必ずしもプライバシー保護に対する直接的な規制にはつながっていない。上述した状況からも明らかな通り、「プラットフォームは寡占状態にあり、競争が促進されないから問題だ」というロジックは一面的な理解と言わざるを得ない。プラットフォームをめぐる生態系はもっと複雑で、もっと微妙なパワーバランスの上に成り立っているのだ

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