2021.05.12
# 日本 # 本

多くの人が意外と知らない…「スピリチュアリティ」とは何か、古くて新しい“その正体”

岡本 亮輔 プロフィール

出版文化としての精神世界

このように、東洋の聖者たちは「信仰なき実践」を軸にすることで、信仰中心のキリスト教を背景とする欧米人を惹きつけた。そのため、キリスト教を背景としない日本には、欧米のニューエイジ文化がそのまま入ってきたわけではない。日本での受容に際しては、書店と出版社が仲介役として重要な役割を果たした。

現在も大型書店には「精神世界」というコーナーがあり、ユダヤ教・聖書研究・星占い・心理学・オカルト・超能力・古武道といった様々なテーマの書籍が集められている。この日本独特の概念を通じ、ニューエイジ文化の特徴である多様な実践や信念の取捨選択という宗教消費が日本社会に浸透していった。 

精神世界という言葉が使われ出した時期は明確である。1978年、新宿の紀伊國屋書店が「インド・ネパールの精神世界の本」というフェアを開催して成功を収める。それをうけて、取次大手の東京出版販売(現在のトーハン)が精神世界ブックフェアを次々としかけ、全国に広がっていったと言われている。

精神世界は書店発信の文化であるため、当然ながら出版社が鍵となる。当時、インターネットのような手軽な情報源はない。ごく一部を例示すると、次のような出版社が海外のニューエイジ文化の情報を取捨選択し、時に日本人に合うように編集して精神世界の書棚に収めていった。

 

たま出版は、特に超能力やオカルトの普及を担った版元だ。社長兼編集長の韮澤潤一郎が物理学者の大槻義彦と激論を交わす様子をテレビの超常現象特集などで見た記憶のある人もいるだろう。1970年代には、『念力スプーン曲げは真実だ』『UFOは第二の黒船だ』『ソ連圏の四次元科学』といった書籍を刊行している。

1980年の読売新聞の広告を見ると、「ビートルズの精神的師といわれるマハリシが提唱したTM(超越瞑想)の効果をわかりやすく解説」した『TMの本』と並び、「英国トップ科学者による心霊科学の世界的古典」である『心霊現象の研究』と『ノストラダムス大予言原典 諸世紀』が掲載されている。

平河出版社は、阿含宗との関わりが深く、同宗を開いた桐山靖雄(1921〜2016)の著作を多く刊行している。人間は自分の先祖の運命を繰り返すという『チャンネルをまわせ──密教・そのアントロポロギー』(1975)や『守護霊を持て──家運をよくする正しい先祖のまつり方』(1980)などだ。だが同時期には、『魔法修行──カバラの秘法伝授』(1979)や『クリシュナムルティの瞑想録──自由への飛翔』(1982)も刊行されており、現在、これらは同社ウェブサイトで「マインドブックス」というカテゴリーに分類されている。

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