給料が安すぎる国・日本…「賃上げ」が絶対必要なのに「賃金が上がらない」本当の理由

脇田 成 プロフィール

経済学では「労働」と「資本」の投入により企業が生産活動を行う…という考え方をする。日本は数十年にわたって低成長に苦しんできたが、労働量も資本量も変化していないという両者の推移だけを見れば、たしかに政府・日銀が言うように、「日本は(労働量、資本量、生産性が重要な意味を持つ)潜在成長率が低い」という結論が、計算上は導き出される。

しかし「ファクターX」は経済の世界にもある。このグラフは、企業は成長余力をすべて内部留保という財務基盤強化に費やしており、その結果、日本経済はいわばフル稼働未満であることを示している。

裏返せば、この内部留保を賃上げや投資(とりわけ賃上げ)に回せば、日本経済はもっと好循環を実現できていたということになるのだが、以下、そのメカニズムを見ていこう。

 

逆回転の日本経済

この内部留保の増加幅は、いくつかの段階を経て、国民経済計算上(国全体の経済を計算するうえ)では、「企業貯蓄」となる。図2は国民経済計算上の企業貯蓄が上昇傾向にあることを示している。


【図2】拡大画像表示

企業貯蓄が増大することによって個別企業の財務基盤は万全になるが、そのことマクロ経済的な含意は恐ろしい。人件費の支払いが停滞すれば、消費が抑制され、経済全体の需要が低下し、採算の取れない設備投資は増加しない。つまり個別の企業延命のための合理的な行動が、日本経済全体では好ましくない結果をもたらしている。これが日本経済を悩ます「合成の誤謬」と呼ばれる問題だ。

注意すべきは、伝統的なケインズ経済学では「家計の貯蓄過剰」が「誤謬」となるが、日本の現状の課題は企業の貯蓄過剰をどう解消するか、ということが問題になっている点だ。

実際、経済学の理論上は「資金を借りるべき主体」であるはずの企業が、逆に貯蓄をしているのだから、いろいろと不思議なことが起こる。「非」や「逆」のついた政策(伝統的金融政策、マイナス金利や所得政策)を政府が強いられるのはそのためだ。個別の専門家は異例だと言って猛反対したが、彼らにはマクロ経済全体の逆循環が見えていない。旧来の処方箋で金融緩和促進といって、企業が貯蓄しているのにさらに銀行貸出を促すから、20年以上日銀は泥沼にはまってしまった。

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