憧れの選手がすぐ横にいたメリット
そしてもう一人、玉井選手には親ではないけど親のような大人がいる。それは寺内健選手の存在だ。実際、寺内選手は今年で41歳になる。27歳差を考えると寺内選手がお父さんでも全くおかしくない。そんな偉大な先輩と練習を共にすることが、玉井選手に大きな影響を与えたという。こうなりたいと思えるかっこいい選手がすぐ近くにいるということは、どれだけ玉井選手に好影響を与えただろう。家族と過ごすよりも選手たちと過ごす時間が長い環境の中で、どんな大人たちといるかが非常に重要なのだ。
ここまでの道のりを支えてきたのは、親御さんだけではない。「親のような親じゃない大人たち」に出会い、玉井選手がその人たちを素敵だと思えたからこそ、選手として、また人間として成長するきっかけとなったのだ。
飛込をやってきてよかったことは…
飛込を好奇心で始めた小学一年生。あれから7年。悔し涙も嬉し涙も流してきた。あの時、水泳を習っていた中で、飛込をやりたいと「言ってしまった」日があるからこそ、今の玉井選手がある。もちろんスポーツを真剣にやっていれば、犠牲にせざるをえないことはたくさんあるだろう。しかしスポーツをやっているからこそ得たものもたくさんある。引退をした今、私は強く思う。14歳、中学3年生の玉井選手はどう思えるのだろうか。
「飛込をやってなかったらこれだけ人と喋ることはないです。コミュニケーション能力は中学生の中では高い方だと思います。人前でも緊張せず喋れるようになりました」
『スパイファミリー』や『呪術廻戦』などのマンガも大好きで、このインタビューのあとも「久々の半休だから友だちと遊ぶ予定がある」と嬉しそうだった玉井選手。中学3年生らしさを持ちながら、超一流のアスリートのメンタルも持ち合わせているのは、多くの大人と交流し、人間観察してきたからこそ、現実を俯瞰して冷静にみられるからなのかもしれない。
5月1日から6日まで東京アクアティクスセンターで開催されることになっている飛込ワールドカップ。玉井選手にとって東京オリンピックに出場する最初で最後のチャンスだ。1年前よりはるかに成長した玉井選手はただ、今やるべきことをやる。その先に見えるものは、きっと私が見たことのない景色だろう。
1)馬淵優佳「飛込を辞めたいといっても、父に辞めさせてもらえなかった日」
2)馬淵優佳「親に競技を辞めさせてもらえない」が虐待にならなかった「理由」
3)鈴木誠也 前編「鈴木誠也「日本の四番で広島の主将」が語る「かなわない」と思った選手のこと」
鈴木誠也 後編「「日本の四番」広島・鈴木誠也選手「僕を生まれ変わらせたあの日の怪我の話」」