知識人「言論男社会」の深すぎる闇…「呉座勇一事件」の背景にあったもの

「呉座勇一事件」の衝撃

2021年2月、ベストセラー『応仁の乱』(中公新書、2016年)の著者・呉座勇一が、シェイクスピアを中心とする文学の研究者で、『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』(書肆侃侃房、2019年)などのフェミニズム批評でも知られる北村紗衣をはじめ、多数の女性や「フェミニスト」「リベラル派」と目される学者や知識人への誹謗中傷を、4000人以上のフォロワーを抱えているツイッターの非公開アカウントで大量に行っていたことが、フォロワーから北村への「告発」で発覚しました。

元々は北村が、『観応の擾乱』(中公新書、2017年)の著者である亀田俊和が、高名な歴史学者である網野善彦に対して「日本が嫌いそう」「レフティ」などといった評価を行ったことに対して北村が「冷笑的」と批判したことで一悶着あったことに端を発する議論から、様々な経緯があって発覚したものですが、呉座のツイートには、女性研究者や「リベラル」と目されるライターへの誹謗中傷で、呉座のみならず日本中世史の研究者や出版業界の関係者など多くの人間(その大多数が男性です)が盛り上がっていたということがますます衝撃的でした。

〔PHOTO〕iStock
 

しかし衝撃的なのはそれだけではありません。

北村が受けてきたオンラインハラスメントが発覚して以降、一方的なハラスメントの被害者である北村に対して、「仲介役」を買って出ようとする研究者(こちらも大多数が男性です)が次々と現れました。中には「直接会って論争すべきだ」という人間まで現れました。

言うまでもないことですが、一方的なハラスメント被害者に対して、「中立的」(実際には、中立と見せかけた加害者側の代弁者と言った方がいいのですが)な立場の人びとが勝手に「仲裁」を買って出ることは、むしろ被害者側を余計に萎縮させるものでしかありません。

ここで注目すべきは、「仲裁者」や「中立的」と見せかけて呉座の側に立ったような言説を展開する人の多くが男性であったこと、また多くが学者などの「知識人」であったことです。

私はいままで様々なところで言論における「リベラル」バッシングやネットにおける女性差別・反フェミニズムなどを検証してきましたが、その中で、アカデミズムから出版界、さらにはインターネットに至るまでの男性中心主義的な「知」のあり方が問題なのではないかという問題意識が常にありました。また、そういった傾向に対する違和感は少なからぬ研究者(特に女性)から散発的にツイッターなどで表明されてきました。

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