サーキュラーエコノミーの先進国として知られるオランダ。さまざまなジャンルで取り組みが進んでいるエリアでは、人々の意識はすでに未来を見据えています。首都アムステルダムを中心に、世界の中でも一歩進んだオランダの今を紹介します。
ライフ・ベストの再生で
難民支援と雇用を創出
Makers Unite

アムステルダムに拠点を置くメーカーズ・ユナイトは、サーキュラーエコノミー企業であり、難民支援企業でもある。彼らは、難民がヨーロッパに避難する際に着用し、海岸に脱ぎ捨てたライフ・ベストをアップサイクルし、PCケースやトートバッグなどを製作。過去に6000着以上ものライフ・ベストを回収し、新たな命を吹き込んできた。

実際にプロダクトを手がけるのは、難民のバックグラウンドを持つ人々だ。母国を離れての異国での生活は容易ではない。特に大きな壁として立ちはだかるのが就業問題だ。
そこでメーカーズ・ユナイトでは、6週間の就業プログラムを提供。オランダのクリエイティブ産業の需要に合わせ、次のステップにつながるスキル開発とポートフォリオ作りを支援している。これまでに170人もの難民がプログラムを受け、66%が次の職業に就くためのマッチングに成功。衣類やテーブルウェアなど商品ラインナップも増え、地元企業とのコラボレーションも積極的に行っている。

共同創業者の一人であるタミ・シュライシレンは、2016年にメーカーズ・ユナイトを創業。元々はバイクタクシーに関わる事業に携わっていたが、自身の専門であるソーシャルデザインと社会問題を結び付けるために起業した。この仕事を始めてから多くの変化を実感している。中でも、難民の人々が持つ「才能」と「可能性」への認識が高まったと語る。
「難民は弱い存在ではありません。私たちと同じで、ただ生まれ育った環境の影響で機会に恵まれなかっただけ」

こう考えるようになったのは、自身の生まれも大きく影響している。タミはブラジルのサンパウロ出身、路上ではフェラーリに乗る人もいれば、その窓をノックする物乞いの子どももいた。「同じ人間が、同じ国、同じ路上にいて、なぜこんなにも不平等なのか?」そんな理不尽かつやるせない想いがメーカーズ・ユナイトの根底にもある。だからか、ウェブサイトでは“refugee(難民)”ではなく“newcomer(新しくきた人)”という単語が使われている。「難民であることはひとつの経験であり、その人を定義づけるものではない」と考える人々が、この単語を意識して使うそうだ。
メーカーズ・ユナイトで働く人々が作った商品は質が高く、商品作りに強いストーリー性があるため、共感してくれる企業や人が徐々に増えているという。

「失敗を恐れずに挑戦してきた結果、ドミノが倒れていくように自分たちの理念が伝わっているのを実感しています」
今後も、クリエイティブを社会との対話の窓口に、「ファッション」「デザイン」「クラフト」「アート」の4分野で事業を展開していく予定だ。最終的な目標は「自分の今の仕事がなくなること」。それはつまり、ひとつの社会課題が解決されたことを意味する。
「難民を支援する僕らのような社会起業もNGOも、本当は必要なくなることが理想。もしオランダで難民問題が解決する仕組みができたら、他の国でも挑戦したいと思っています。人々に影響を与え、意識を変える。世の中に前向きな変化をもたらしたいんです」

ACCESS
Hannie Dankbaarpassage 22 1053 RT Amsterdam
www.makersunite.eu