「きちんと」の重圧につぶされないか
「でもね。娘が私の家に来る日にも、プリントをどさっと持たせて『○ページから○ページまでやらせてください』と指示してくるんです。1枚やり残したりすると、長―い抗議のメールが来る」
別れてからも真美子さんは、そういうメールにいちいち震え上がっていた。あるときふと「私を責めている彼の不安は彼自身の問題だ」と気づいてからは、分離ができるようになった。そして、少しずつ冷静に対応できるようになってきた。
「『それは大変失礼いたしました』とかって、大人の対応をしています(笑)。怖くてたまらなかった元夫だけれど、いま思えば、かわいそうな人だなあ、って。いまだに『きちんと』娘を育てなければというプレッシャーに苦しめられているんですね……」
いい嫁、いい妻であろうと必死だったかつての自分が、そこに重なる。
もっと早く、ギブアップしていればよかった。新婚時代に「私、できません!」と言えていたら、どうなっていたのだろうか。案外、それなら仕方がない、と受け入れてもらえていたのかもしれない。
「ギリギリまで頑張っちゃったから、相手もつい期待してハードルを上げてしまったんですよね」
元夫と暮らし、中高私立一貫校に通う娘が、「きちんと」の重圧に押しつぶされないかが、いまは不安だ。元夫と一緒にいると、力関係がアンバランス過ぎて娘を守ってやれないが、離れたことで逆に、娘の逃げ場になれるかもしれない。そのためにも、お金が必要だから仕事を頑張ろう。娘に頼ってもらえる母になれるように、関係づくりに頑張ろう。
真美子さんは、あ、と気づいて微笑んだ。
「頑張りすぎないように、頑張ります」
