ひとつが、「好み」説だ。低音を中心にビートを軸とする韓国語版に対し、日本語版はヴォーカル(歌)を軸に調整されている可能性がある。カラオケ文化が韓国以上に浸透している日本では、たしかにJ-POPで歌や詞が重視される傾向はある。音楽ジャンルでも、欧米と同じくダンスミュージックやヒップホップが中心の韓国に対し、日本ではいまだにロックバンドのサウンドが好まれる傾向が強い。
もうひとつが、「能力」説だ。端的に言って、IZ*ONEの日本語曲の制作スタッフに能力的な問題がある可能性だ。ベテランのエンジニアに訊いたところ、IZ*ONEの日本語曲は「音圧を稼ぎすぎるあまり、ダイナミックレンジを狭くして立体感を失っている」と分析した。
世界中のファンが指摘する問題
その違いを生じさせた本当の原因は、日韓の当事者から証言が得られない以上はわからない。
ただ、IZ*ONE前半期の日本語曲は、まだ制作に力を入れていた気配があった。しかし、ファンの期待を裏切ったのはそれ以降の日本語曲だ。なかでも2019年9月に発表された3rdシングル「Vampire」は、多くの不評を買った。楽曲そのものの質もあるが、前述したようなミキシングの問題がそこには見られた。
この曲は、くぐもったアナログ音のようなイントロから、ヴォーカルの入るAメロから通常の音圧にする趣向だ。こうした演出自体は珍しくないが、Aメロの音の抜けがきわめて悪いために、イントロ部分が上手く機能していない。実際、筆者がYouTubeではじめてこの曲に接したとき、PCにつないでいたスピーカーの問題だと勘違いし、接続や故障の確認をしたほどだった。ミキシングで完全に失敗している。
もちろんそれは「Vampire」の“仕様”だったわけだが、筆者が自然体で発見してしまったこのミキシングの問題は、世界中のファンから指摘されている。その一部はYouTubeのMVにおけるコメント欄で確認できるが、そのほとんどは英語によるものだ。しかもそれに対し「ヴォーカルのミキシングが失敗」「これは典型的なJ-POPのサウンド」といったやり取りが交わされている。
「ご機嫌サヨナラ」からもうかがわれた制作スタッフの「能力」説は、後に発表されたこの「Vampire」からも推測できるのだった。