急激なバイラル・ヒットには、反動がつきものだ。
「オールド・タウン・ロード」も、「音楽的にカントリーに入るか疑問だ」との理由から、カントリー・チャートから外される憂き目に遭う。これを、黒人アーティストが白人主体のカントリー・チャートの1位を獲得したためと受け取った人が多く、人種差別ではないかと議論の的に。
だが、ネット有名人として炎上の対処法をわかっているリル・ナズ・Xは真っ向からは反論せず、カントリー界の大物、ビリー・サイラスを招いてリミックスを作って問題を解決し、さらなるヒットに導く。
ふたりが開拓時代のカウボーイに扮し、リル・ナズ・Xだけが馬に乗ったまま現代にタイムスリップするミュージックビデオも秀逸だった。このビデオは2020年のグラミー賞の最優秀短編ミュージックビデオ賞を受賞したほか、授賞式当日のパフォーマンスではBTSらを招いてハイライトとなった。

同性愛者であることをカミングアウト
連続記録更新中に、リル・ナズ・Xはもう一つ大きな話題を投下する。
2019年6月30日、LGBTQの啓蒙月間であるプライド月間の最終日に、同性愛者であるとカミングアウトしたのだ。
彼が属するヒップホップ文化は、ホモフォビア(同性愛嫌悪)が根強く、彼自身「みんなに受け入れられることは、期待していない」とコメントした。
黒人社会では、肌の色だけで差別されているのに性的指向で2重の差別を受ける必要はない、との考え方が支配的である。それに輪をかけて、ヒップホップ文化はマチズモを強調しがちで、キリスト教を土台にしたゴスペルと近しいR&Bも伝統的に異性愛がテーマだ。
これらの背景から、ヒップホップ、R&Bの世界でカミングアウトするアーティストは稀だったのが、2012年にフランク・オーシャンが『チャンネル・オレンジ』でバイ・セクシュアルであることを表明してから、少しずつ風向きが変わってきた。