第2幕で、リル・ナズ・Xは、マリー・アントワネットのようなウィッグを被った自身に裁かれる。
鎖に繋げられた彼は、競技場にも処刑場にも使われたローマのコロッセオのような場所で群衆から怒声を浴び、石を投げられる。おもしろいのは、投げている人々が石でできている点。これは、彼を執拗に攻撃する人々の頑固さを表していると私は取っていたが、ベタンコート氏は「自分では考えない人々の象徴」としている。
いずれにしても、リル・ナズ・Xがネットの向こうにいる攻撃者をどう思っているのか、よくわかる。石に当たった彼は天国に召されるのだが、ここで迎えるのが、ギリシャ神話で美しいが故にゼウスに誘拐されて神々の給仕となったガニュメーデースであり、彼も同性愛のシンボルである。リル・ナズ・Xは天国に迎えられず、ポールを渡され、地獄に真っ逆さまに堕ちる。
残り1分を切った赤い髪の第3幕目が、もっとも批難を浴びている。
リル・ナズ・Xは、地獄に堕ちながらポールダンスを披露し、そのままサタンにラップダンスをする。ラップダンスとは欧米のストリップ・クラブのサービスで、半裸の女性が客の男性の膝(ラップ)に座り、体をこすりつけるように1曲が終わるまで踊ること。
ちなみに、チップの相場は20ドル。ポールダンスもストリップ・クラブの舞台にはつきものなので、リル・ナズ・Xは地獄に堕ちながらストリッパーに変わったとも取れる。
前述のサタン・シューズの件もあり、この部分が悪魔崇拝だと敬虔なクリスチャンに怒られているのだ。ベタンコート氏はしかし、「悪魔を崇拝しているのではなく、悪魔を含めた抑圧的なキリスト教に打ち克ち、自分の欲望に殉じたシーン」と説明している。
捉え方は様々だろうが、悪魔を殺すシーンをクライマックスに置いたリル・ナズ・Xが、自分の存在を否定する保守的なキリスト教に反旗を翻した内容であるのはまちがいない。