リモートワークのコツを教えてもらうために住まいに快適な仕事環境をつくっている方を訪ねました。夫婦共に建築家の佐藤圭さんと佐々木倫子さん。築40年のマンションを改装した空間には、住居や家具を熟知した二人のアイデアが随所に。試行錯誤をしながら辿り着いた理想的な職住一体とは?

 

●暮らしている人
佐藤圭さん・佐々木倫子さん
一級建築士事務所〈.8/ TENHACHI〉を主宰。神奈川を拠点に、マンションリノベーションや戸建て住宅、シェアオフィスなどの設計を手がける。作り付け家具やオリジナル家具の設計の経験が豊富で、空間をトータルにコーディネートしてくれる。

家具や音の使い方で、
いつもの部屋を“仕事モード”に

メールの返信など、ノートパソコン一台でできる作業はベランダで。幅20センチほどのコンパクトなベンチに、足を投げ出して座っている。目的は“短時間でリフレッシュすること”。それが明確ならデスクも不要。椅子ひとつ外に出せば真似できる。

築40年のマンションを自分たちで設計してリノベーションしたのが2014年。同時期に建築事務所を立ち上げ、住まいを拠点に活動を続けてきた佐藤圭さん、佐々木倫子さん夫妻。日本社会がリモートワークを推進するずっと前から、生活と仕事をひとつの空間で両立させてきた大先輩だ。

リビング・ダイニングに横たわる幅4.5メートルの巨大なカウンターテーブル。食事の時は調理台や食卓テーブルに、そのほかの時間は仕事場や子どもの勉強机になり、24時間フル活用されている。大は小を兼ねるとはまさにこのこと!

家の中心は、リビング・ダイニングにある巨大なカウンターテーブル。

「食卓テーブルって場所を取るのに、食事の時にしか使わないのはもったいないですよね。我が家では日中は仕事場になりますし、夕飯を作る時は、向かいに息子を座らせて同時に宿題を見ることもできる。その傍らで、引き続き主人が働いていたり。24時間フル活用しています」と佐々木さん。

広いからこそ家族が集えるし、用途も限定されない。例えば、仕事机を買い足すかわりに、ダイニングテーブルをひとまわり大きなものに買い換えれば、似たような活用ができそうだ。

極小ワークスペースを設けるときの目安は、ノート型パソコンに多い奥行き30センチが確保できること。「人によっては、狭いことで集中力が高まる場合も。僕もそのタイプです」と佐藤さん。

もうひとつの仕事スペースは窓辺のカウンター。ここは逆に奥行き30センチの極小空間。だが、狭いことでグッと集中できる、と佐藤さん。

「奥行き30センチあればいいんだ! と思考を切り替えれば、収納家具の天板や出窓もデスクになり得る。家の中に働ける場所が見つかるはずです」

とはいえ、設計事務所の仕事は多忙。住空間でメリハリをつけて働くためのコツが、ラジオだという。

「朝はニュースを見ながら朝食をとるのですが、片付けをしてテレビを消し、代わりにラジオが流れ始めると、始業の合図です」と佐々木さん。

同じ部屋でも音が変わると雰囲気が一変。部屋の広さにかかわらず、誰もが取り入れられるアイデアだ。