日本の自動車業界に忍び寄る、産業構造「崩壊」への足音

家電業界の二の舞を演じてはならない
国内家電メーカーが、1990年代から2000年代にかけて、中国・韓国系のメーカーに押される形で衰退の道をたどったのは記憶に新しい。そして近年は「日本経済の大黒柱」である自動車産業までもが、急速なデジタル化とサプライチェーンの水平分業の流れを受け、その競争力を侵食されようとしている。
産業構造が大きく変化する中で、果たして日本の自動車産業は生き残っていけるのだろうか。忖度なしに「自動車業界」の現状を暴く現代新書の最新刊『日本車は生き残れるか』より、日本を中心にグローバルに活動する自動車ジャーナリストの川端由美氏が自動車産業の今後の見取り図を描いた第1章「自動車産業はどう変わるのか」を一部抜粋してお届けする。

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EVは日本が得意な分野...のはずが

EVには、大雑把にいって、根幹となる三つの部品がある。動力をタイヤまで伝える駆動系として電気モーターとリチウムイオン電池に注目が集まりがちだが、実は電圧を変換する制御系の装置であるパワーエレクトロニクス(DC−DCコンバーターやインバーター)も重要な技術である。

実はこれらの技術の多くはいずれも日本が得意としてきた分野でもある。日本電産は電気モーターでは世界的なプレイヤーだし、パワーエレクトロニクスはもともとエアコンや洗濯機などの家電の技術で広く応用されているものだ。リチウムイオン電池はソニーがビデオカメラの小型化にあわせて開発したという歴史がある。リチウムイオン電池についてはパナソニック(三洋電機)、東芝、ソニーといった顔ぶれが揃う。つまり、個々の技術では、日本にはまだまだ戦える素地がある。

垂直統合から水平分業に移行する

それでも、日本の自動車産業のヒエラルキー構造、垂直統合型の産業構造はこのままでは間違いなく崩壊のプロセスをたどるだろう。生き残る企業はあるが、構造自体は確実に崩れる。「はじめに」の文言をいま一度強調しておこう。

日本の自動車産業は崩壊しない。ただし、戦い方のルールは大きく変化する。そして、新しいルールに適応できた企業だけが生き残ることができる。

日本の家電産業を思い出していただきたい。自動車産業と並んで、日本経済の牽引役として世界中で活躍していた国内家電メーカーが、1990年代から2000年代にかけて、中国・韓国系のメーカーに押される形で衰退の道をたどったのは記憶に新しい。日本の家電産業が再編を余儀なくされた一因は、「垂直統合型」から「水平分業型」に生産の現場がシフトしていったからだ。垂直統合型とは、製品開発から生産・販売まで、すべてのプロセスを1社または一つのグループで行う形態を指す。それに対し、水平分業型とは、製品の中心となるような部分の開発・設計などは自社で行うが、それ以外の製造・販売などを外部に委託するようなビジネスモデルを指す。アップルは現在、iPhoneを世界中のメーカーに委託生産させている。同社は、新製品の開発・設計や、iPhoneでできるサービスの拡充に注力する。これが水平分業の一例だ。

中国の深圳のような場所へ行くと、家電の産業構造がまるでミルフィーユのように、何層構造にもなっている様を実感できる。図面、金型、基盤、部品、組み立て製造といった工程ごとに、それぞれ独立した企業を選んで発注すれば、自社工場がなくてもモノづくりが可能な時代になっている。だからこそ、中国ではもちろん、日本でも家電のスタートアップが増え続けている。それは垂直統合モデルにこだわり続けた日本の大手家電産業の衰退につながった。