SNSで「にじいろ」のハンドルネームで情報配信しているにじいろさんは、元養護教諭で、現在フリーランスの性教育講師、思春期保健相談士として性教育の現場にいる。
文科省が新しく出した『生命の安全教育』という性暴力や性被害を予防するための教材について、専門家の視点で前回寄稿してもらった。記事は反響が大きく、コメントも数多くいただいた。その中で目立ったのは、子どもを性暴力、性被害の危険から守るためには、「SNSをやらせない」「危ないことをしない」といった規制を強めるべき、親や学校がもっと厳しく管理すべき、という意見だった。
果たして、規制を強めることがすべての解決になるのだろうか?
今回は、文科省の『生命の安全教育』の教材に書かれている具体的な被害事例を元に、子どもにどう伝え、何を話すことが大切なのかをにじいろさんに寄稿してもらった。親世代も教わってこなかったこの問題。答えはなかなか難しい。でも、だからこそ、子どもだけでなく大人もいっしょに考えていただければと思う。
「SNSなんてやるから悪い」が正解なの?
以前、ある中学校を訪れた時、校長先生が呆れたように私に言った。
「なんで自分の裸の写真を送るなんてバカなことをしてしまうんでしょうね~。SNSでつながった人に会いに行ったりするのもね。うちの学校でも立て続けにあったんですけど、そんなことをするなんて、まったく理解できませんわ~」
私はいろいろ言いたいことがあったが、言えなかった。
講演直前で時間がなく、初対面の校長先生だったこともあるが、私も数年前は同じようにボヤいていたからだ。
警察庁によると、2020年にSNSに起因する事犯の被害を受けた18歳未満の子どもは1819人。被害者は中高生が9割近くにのぼる。これは氷山の一角で、実際にはこの何倍もの子どもが被害にあっているに違いない。
こういったSNSトラブルに対し、この校長先生のような声はありがちだ。「なんでそんな簡単に」「知らない人に会いにいくなんて」多くの大人がそう思うだろう。
先月、文科省が発表した『生命の安全教育』の教材にも、中学生向け、高校生向けはもちろん、小学校高学年向け教材にもSNSの危険性について触れられている。それぞれにワークシートがあり、中学生向け、高校生向けにはリアルな事例もいくつか紹介されている。
ワークシートには「事例を読んで、登場人物はそれぞれどのように行動すればよかったのか考えてみましょう」とあり、私も中高生になったつもりで考えてみた。
最初は楽しかったが、だんだん苦しくなってきた。
なぜなら、多くの生徒からあがりそうな答えが事例として書かれている被害者を責めるような内容になる可能性があること、教員のまとめが「~しないように」「~してはいけません」と禁止という形で終わりそうな気がしたからだ。
実際に教材に書かれている事例をひとつご紹介したい。ぜひ、あなたもこの事例にどんな答えを出すか考えてみてほしい。