ショパンとベートーヴェンの違い
曲の形式も、それまでにないジャンルをつくってみたりとか、ショパンはそれなりに苦労していると思います。
これは想像ですけど、ショパンはモーツァルトのバランスの美しさに憧れていたんじゃないでしょうか。モーツァルトや古典的なもの、きれいなプロポーションへの憧れというか、それを目指したいという思いがつねにあった。
そこに精神性が加わるのがショパンのむずかしいところです。
ショパンといえば素晴らしいメロディストですが、やっぱり歌が基本だと思います。モーツァルトもそうでしょう。人間の声、歌。
だから、歌よりは器楽という感じのベートーヴェンとはちょっと世界が違う。ベートーヴェンは、ショパンのお気に入りの作曲家ではなかったみたいですね。
ロマン派の作曲家たちとも異なっていて、シューマンやリストに比べたら、ショパンは古典的です。
ピアノの天才
ショパンは、ピアノの演奏技術に関しては特別な天才でした。ほとんど独学で、若くして、20歳ぐらいで、すでに誰にも真似できないような、独自のピアニズムを確立していた。
パリへ出て間もない頃に、当時の有名なピアニスト、フリードリヒ・カルクブレンナーのレッスンを受けようとした、というエピソードがあります。カルクブレンナーから「3年間自分のもとで勉強するように」と言われるんですね。
で、受けるかどうか迷いましたが、結局受けませんでした。3年間もドイツの先生の教えを受けると、せっかくのオリジナルなものが失われるのではないかと、周囲から止められたという話が残っています。ショパン本人も、自分のオリジナリティを伸ばしていこうという意識は非常に高かったと思います。
ショパンは当時を代表するピアニストの一人でした。とても人気があって、演奏会のチケットを入手するのはたいへんだったそうです。でも、人前での演奏は、じつはあまり好きではなかった。というか、嫌いだったと言ってもいいぐらい。
知らない人にじろじろ見られるのも嫌だし、大勢からわーっと拍手されるのも苦手でした。外向、内向というと、やっぱり内向的なタイプの人。公開での演奏が少なかったのも当然だと思います。
本質は、繊細さにある
ショパンの音は大ホールではよく聞こえなかったと言われています。本人もそのことをよく分かっていたのでしょう。大きなホールで弾くことを嫌がって、サロンのような小会場で少ない聴衆を相手に演奏することを好んでいました。
ショパンの本領は、ピアニッシモやピアニッシッシモの、繊細な世界にあったようです。じっさいにショパンの演奏を聴いた人たちの話によると、風が鍵盤をさわるかさわらないかのようなタッチで弾いていたとあります。本当にピアニッシッシモ、聞こえないぐらい。でも素晴らしい、と。
そもそも、ショパンは外向きの派手なパフォーマンスをするような性格ではありませ
ん。そんなことは必要ないというか、大きな音で名人芸を見せつけるような演奏は絶対に嫌いだったと思います。
むしろ聴き手のほうが興味を持って、ショパンの音楽に入っていかなければならない。自身の内面の繊細な表現をショパンは聴いてほしいんです。