金融機関に脅威を植え付けた2つのレポート
複雑なグローバル経済の中で、気候変動が経済活動に破壊的な影響を及ぼすことがすでに予見されている。特に2020年には世界の金融システムを管轄する2つの公的機関から、気候変動がもたらす金融危機リスクが相次いで発表されたことで、金融業界での気候変動に対する脅威認識は一段と大きく高まった。
1つ目の報告書の発表者は、国際決済銀行という国際機関だ。本部はスイスのバーゼルにあり、現在、日本銀行も含めた62ヵ国・地域の中央銀行が、国際決済銀行に預金口座を持っている。
国際決済銀行の役割は、以前は国際送金が主だったが、最近では、金融市場や民間の金融機関の規制が主たる活動になってきている。たとえば、日本のメガバンク3行を含む世界の主要銀行を規制する「BIS規制(バーゼル規制)」は、国際決済銀行が事務局を務めるバーゼル銀行監督委員会という国際機関がルールを作っている。さらに国際決済銀行は、為替の安定化、銀行間の資金決済の健全性と効率性の確保、グローバル金融システム全体の金融市場リスクの分析と監督などもおこなっている。いわば、グローバル金融システムにおける「中央銀行」と「金融庁」の役割を果たし、世界の金融システムの安定化にとっての要だ。
物理的リスクと移行リスクが金融システムを不安定化
この国際決済銀行が、2020年1月に『グリーン・スワン(緑の白鳥)』というレポートを突如として発表した。そしてレポートの中で、気候変動が巨大な金融危機を引き起こすリスクがあると世界に警鐘を鳴らした。金融制度の要である国際決済銀行が気候変動による金融危機に言及したことに、金融界は衝撃を受けた。
気候変動が金融・経済にもたらす影響には、大きく2種類がある。まず、気候変動による災害や自然環境の変化による経済ダメージ(これを「物理的リスク」という)。そしてもう一つが、気候変動を緩和しようと政府が産業転換を強いる政策を導入し、同時に企業や金融機関も自発的に産業転換を図ろうとすることによる経済システムへの影響(これを「移行リスク」という)。『グリーン・スワン』には、この物理的リスクと移行リスクの双方が、金融システムを不安定にしていくと書かれていた。