2021.05.26
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「自分自身のことが一番大切」藤井棋士がとことん自分と向き合うワケ

藤井聡太論 将棋の未来(6)
谷川 浩司 プロフィール

記録ではなく、強くなること

棋士は何時間にも及ぶ対局の中で、形勢のわずかな変化にも敏感でなければいけないが、それによる気持ちの揺れはできるだけ抑えなければいけない。昔から言われてきた戒めである。

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とはいっても、やはり棋士も人間だ。調子がよくて対局が多い時は、あまり気持ちの揺れはない。対局が週に一局以上あれば、自然に平常心、不動心に近い状況で指せるように思える。

ところが1ヵ月ぶりの対局になると、どうしても結果を求めたくなる。「早く勝ちを決めたい」という思いも生じてくる。はやる気持ちが時に悪手を招いてしまう。これは棋士における永遠の課題であり、人間同士が戦う将棋の面白みでもある。

 

藤井さんが連勝記録やタイトル獲得に気持ちが揺れることがないのは、記録への執着がないからだろうか。

藤井さんは史上最年少のプロデビューの時から常に「新記録」と結び付けて報じられてきた。最多連勝記録、最年少昇段、最年少優勝など数え上げればきりがない。

しかし、折に触れて藤井さんは「目標は記録よりも、とにかく強くなること」を表明している

例えば、「自分自身のことが一番大切なので、成績自体をあまり人と比較することは意味がないかなと思っています」というように。

最年少プロデビューについて直接、彼に尋ねたことがあるが、「加藤先生の14歳7ヵ月という記録は奨励会時代から知っていましたが、最年少ということはまったく意識はしてなかった」と語っていた。

彼はさまざまなメディアによるインタビューのたびに「強くなる」という言葉を繰り返している

「……将棋を指すために生まれてきたかは分からないですけど、将棋に巡り合えたのは運命だったのかなと思いますし、将棋を突きつめていくこと、強くなることが使命……使命までいくかわからないですけど自分のすべきことだと思います」

「最近はあまり結果というところには、目標は置いていなくて。やはりより自分が強くなれれば、その分いい結果も出るかなと思いますし。やはり強くなることで、いままでと違った考え方であったり、局面の捉え方ができるようになれば、成長なのかなというふうに思っております」

自分の中でもまだまだ強くなる余地というのが、たくさんあると思うので。そういったところを伸ばしていきたいなと思ってます。やはりどんな局面であっても、自分でしっかり考えて、最善手、好手に近づくことができるというのが、一つの理想なのかなとは思います」

「記録を意識しない」という言葉が、どこまで本心かはわからない。あまりにも記録を期待して連呼する世間を気にかけた発言という見方もできるだろう。しかし、純粋に自分の実力を高めることを志している言動は、羽生さんの姿勢に通じるところがあるように感じる。

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