2021.05.26
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「自分自身のことが一番大切」藤井棋士がとことん自分と向き合うワケ

藤井聡太論 将棋の未来(6)
谷川 浩司 プロフィール

「相手と戦っているか、将棋と戦っているか」

もちろん、羽生さんにしても記録を意識したことはあった。例えば七冠を制覇した前後2年間ぐらいは勝負にこだわっていたはずだ。あるいは渡辺さんのような後輩の強豪が頭角を現してきた時のタイトル戦では勝利を強く意識していたように思う。しかし、それもあくまで限られた期間だった。

2018年2月17日の第11回朝日杯将棋オープン戦で藤井棋士と対戦する羽生棋士 撮影 岡村啓嗣
 

藤井さんが記録を伸ばしたり、ただ勝ったりすることよりも、純粋に強くなることを目指しているのは、事前の対局者研究に重きを置かないという構えにも表れている

彼は相手によって作戦を変えることをほとんどしない。序盤のスタートは後手番だと必ず「△8四歩」を突く。先手番の時は矢倉と角換わりが非常に多い。王道の指し手である。

序盤戦で相手の苦手の戦法を選ぶことは考えず、相手の弱点を突いて勝つというスタイルではない。その意味では相手のミスを期待しない指し方とも言える。それは棋風というよりも「相手と戦っているか、将棋と戦っているか」ということだ。

そこにも羽生さんと共通した姿勢を感じる。羽生さんは相手の苦手な戦法で戦うよりも、相手の得意戦法に飛び込んでいき、最高度の水準による戦いを通じて自身の技術を高めてきた。羽生さんが見据えているのは、対戦相手ではなく、将棋の真理なのだろう。

羽生さんがNHKの特集番組(2020年8月22日放送)で、藤井さんについてこう語っていた。

これから先もトップランナーとして牽引していってほしいと思いますし、自分も含めて他の棋士たちも藤井さんの将棋からいろいろなものを吸収して学んで追いついていくというか、内容を理解できるようになっていくことが大事じゃないかなというふうに思います

ほかならぬ羽生さんの言葉だけに、衝撃的とも言える発言である。

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第四章    「将棋の神様」の加護
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第六章    AI革命を生きる棋士
第七章    混沌の令和将棋

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