カール・フィリップ・エマヌエル・バッハの影響
ショパンが大バッハ(ヨハン・セバスチャン・バッハ)を尊敬して、その音楽を研究していたというのはよく知られた話ですね。
『平均律クラヴィーア曲集』の楽譜をつねにピアノの上に置いていて、よく弾いていた。手紙の中で、その楽譜の中にあるミスプリントについて指摘するぐらいよく研究していた。
ショパンの音楽が非常にポリフォニックである点にも大バッハからの影響を見ることができるでしょう。テクニック(技術)と内容が一体になっている点で、そして芸術的に高いレベルのエチュードを書いたという点で、とくに大バッハとショパンのつながりは重要なものだと思います。
大バッハの次男、カール・フィリップ・エマヌエル・(C・P・E・)バッハは18世紀を代表する大音楽家ですが、彼が書いた著作に『Versuch über die wahre Art das Clavier zu spielen(正しいクラヴィーア奏法)』があります。
鍵盤楽器演奏に関するバイブル的な存在として、同時代や後の時代の音楽家たちに大きな影響を与えた本です。これは私の個人的な意見ですが、ショパンはこの本もよく読んで研究していたのではないかと思います。
バッハ親子とショパン
C・P・E・バッハの言葉を少し紹介してみます。「我々の手の形と鍵盤の形を見れば、鍵盤をどうタッチすべきかが分かるだろう。(中略)真ん中の三本の指は、親指・小指よりも長い。奥の高い鍵盤(すなわちピアノの黒鍵のこと)は本質的に長い三本の指で弾くものである」。
これは先に述べた手のポジションや指づかいについてのショパンの考え方と一致します。
また、手の柔軟さについて。「演奏するときに指はアーチ状にするべきで、筋肉はリラックスしている必要がある。この二つの点についてはとくに注意を払う必要がある」。
このことに関しては、次のショパンの言葉を思い出します。「タッチのそろった正確な演奏をするためには柔軟でリラックスした手が必要だ」。
『正しいクラヴィーア奏法』の中で、C・P・E・バッハは父親(つまり大バッハ)の鍵盤楽器演奏がいかに優れたものだったかを述べたり、古い時代の指づかいを紹介したりするなど、非常に興味深いことを教えてくれています。
C・P・E・バッハのいう鍵盤楽器とはチェンバロのことではないかという反論もあるかもしれませんが、仮にそうだとしても、鍵盤楽器演奏の本質という意味では、ピアノにも通じるものでしょう。
いずれにしても、バッハ親子とショパンは「教育者」という観点からすれば共通点が多いように思えます。