孫の学費でいがみ合い
「『ありがとう』、ずっと続くと『これだけか』。我ながら、上手い一句だと思うんです」
牧康則さん(愛知県在住、79歳・仮名)はこう自嘲する。
牧さんが69歳のとき、30代の一人息子が珍しく電話をかけてきた。
「娘が3歳になるので、そろそろ家を買いたい。ついてはいくらか援助してもらえないか、という相談でした」
息子一家は勤め先に近い名古屋市内に住んでいたが、「将来を考えて、新居は実家の近所に建てようと思う」とも言われ、牧さんと妻は舞い上がった。孫娘の顔を毎日のように見られるのだ。

夫妻は耳を揃えて頭金800万円を用意した。老後資金の3分の1にあたる額だ。1年後に開いた上棟式では、張り切って高価な今治バスタオルを買い、職人さんやご近所に配って回った。
「竣工の日、初めて面と向かって息子に『ありがとう』と言われ、妻は泣いていました」
それからは忙しく、何かと出費のかさむ日々が始まった。息子夫婦は共働きのため、週に2~3回は牧さん夫妻が夕食を準備する。食料品や日用品の買い物、車のガソリン代、外食費に加えて、年に一回の家族旅行の費用まで持つようになった。
確かにカネはかかる。でも、もう人生も終盤だ。家族を、孫を笑顔にできるなら安いもの。牧さんも妻もそう考えていた。
しかし、貯金が1000万円を切った一昨年末から、夫妻は不安に苛まれ始めた。最大のきっかけは孫の進学だ。