ニセ医者に騙された警察庁最高幹部

闇の盾(3)政界・警察・芸能界の守り神と呼ばれた男

医師がなぜ、歯科医院を経営するのか

私が小城と知り合ったのは、昭和55(1980)年ごろだった。鎌倉さんとの会食の席で小城を紹介され、交流を持つようになったのである。私の建てたサニークレスト三田に小城が遊びに来たこともあった。

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こいつ、どうも変だな……私がそう感じはじめたのは、小城の言動からだった。小城は革鞄のなかの医療器具を見せたりしていたが、医療関係のことを聞くと、言葉を濁すことがあった。

「小城さん、最近ちょっと膝が痛むんだけどさ、見てもらえないかな?」
「うーん、そのあたりは私は専門ではないんで、寺尾さんのかかりつけの病院に行かれたほうが早いですよ」

何度か質問を重ねても、どうも曖昧な答えが多いのである。しかも、開業しているのは病院ではなく、歯科医院だという。医師がなぜ、歯科医院を経営するのか。どう考えてもおかしい。

私は、小城が経営するという千葉・行徳の歯科医院へと足を運んでみた。待合室には、「当院理事長」としてたしかに小城の名前入りの医師免許が額に入って掲げられている。私はそこに記載されていた厚生省認定の医師免許番号をメモし、後日、厚生省に問い合わせたところ、案の定、その番号で登録されていたのはまったくの別人だった。

小城は他人の医師免許のコピーをどこからか入手し、名前のところだけを書き換えて、額に入れて飾っていたのである。この当時、ニセの医師免許を使って医療行為をしたり、会社の健康診断を請け負うという事件が多発していた。これは医師法違反の、立派な犯罪である。小城は、ニセ医者だった

室城さんも鎌倉さんも、犯罪者から饗応を受け、高額なプレゼントを受け取っていたとなれば処分は免れない。これはすぐに対応しないと、まずいことになる。私はこの情報を誰にも告げずに、まず警視庁に向かった。鎌倉副総監と善後策を協議するためである。

「大至急、鎌倉副総監に会いたい。寺尾が来たと言ってもらえばわかるから」
「あいにく、副総監はいま会議中で、時間がかかりそうです。どうされますか」
「それじゃあ、総務部長の椿原さんに伝えたいことがある。すぐに会いたいんだが」

私はこのとき、椿原さんとの面識がなかった。椿原さんは庁内にいたようだが、元巡査の寺尾と言っても警戒して会おうとせず、秘書役の土橋榮一参事官が対応した。

「実は、鎌倉さんが親しく付き合っている小城という男が、ニセ医者だということがわかった。医師免許の番号を確認したから、間違いない。これが公になると、大変なことになる。至急対処したほうがいい。幸い小城が開業しているのは千葉だから、警視庁で触らずに千葉県警にやらせればいい。そうすればあまり騒ぎにならないから」

土橋は緊迫した顔つきで聞いていたが、私の話を聞いてすぐに納得したようだった。

「ありがとうございました!」

そう力強く言っていたことを覚えている。

土橋はその直後、作業着を着てみずから椿原さんの自宅に行き、小城からプレゼントされた豪華なテーブルを回収してきた。しかも土橋は、そのテーブルを私の三田のマンションに運び込んできたのだ。

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