冬場は杜氏として働く
実はこの発酵の知恵と技術にも秘密がある。福島さんは冬場は地元の武蔵鶴酒造に務める杜氏でもあるのだ。
「葡萄栽培を始める前の2010年から地元の酒造で蔵人になりました。醸造の技術を学びたかったし生活のためのアルバイトもしたかった。両得でした」
福島さんはここで麹菌を扱う日本酒づくりを学ぶ。葡萄を潰して放置しておけばひとりでに発酵が始まるワインづくりに比べたら、それは何倍も難しい技術と知識がいる作業だ。
なんでも貪欲に学ぶ福島さんは5年目にはそれまでの南部杜氏(東北から来る雇われの杜氏)の引退で、自ら杜氏に立候補。いまでは自前のブランド(地元のイセヒカリ100%使用、乳酸を添加しない生もと(※酒辺に元)造り)「饗之光」シリーズ(純米酒、純米大吟醸、槽汲み、袋釣り、活性にごり原酒)も生産してワイナリーに揃えている。
それだけではない。杜氏活動の成果はワイナリーの壁に使われた土壁に現れている。
「日本酒の蔵は土壁です。土壁は呼吸しているから酵母菌が繁殖しやすい。温湿度を自然に調整してくれて、働いている人間にも微生物にも心地よい。だからこだわりました」
