ベストセラー著者が始めた出版事業に、たった27分で4000万円集まった理由

「印税最大50%」に多くの共感(前編)
街から書店が消えていく。それほどの出版不況の中、あえて出版で起業したのが田中泰延(ひろのぶ)氏だ。「ひろのぶと株式会社」は「印税率で出版業界を変えたい」を目標に掲げる。通常、本の印税率は価格の1割だが、初版印税を2割とし、10万部以上では3割、50万部以上は4割、100万部以上は5割に上げていく「累進印税」を導入し、業界の常識を打ち破ろうとする。2022年6月、株式投資クラウドファンディングのファンディーノで株主を募集したところ、IPO(新規上場)を予定していない株であるにもかかわらず、わずか27分で募集上限額いっぱいの4000万円が集まった。記録的な速さに注目度の高さがあらわれているが、それは田中氏がwebコラムやベストセラー著書で培ってきた高い知名度だけが理由ではないはずだ。では何が異例の事態を引き起こしたのだろうか。株主募集にあたり相談役を担った新規事業家で『起業は意志が10割』(講談社刊)の著者・守屋実氏との対談で、その理由を探る。前後編2回でご紹介しよう。

意志ある事業の破壊力

守屋 田中さんの案件には、募集上限額に達した後も、キャンセル待ちに300人もの長蛇の列ができていましたね。そんな事態は予想していましたか?

田中 まったく予想していませんでした! 案件公開当日は結果を一人で見るのが怖くて、友達と鳥貴族に行って、その友達にチェックしてもらっていたんです。「頼む、今ここで好きなものなんでも頼んでいい! 一番高いものを頼んでいいぞ! どうか君たちもポチッと投資して……!」とか言って。「ここ350円(税込み)均一なんですけれど!」って突っ込まれるバカな会話をしながら(笑)。そうしたら、「田中さん、もう達成したよ」と言われて、「え? 500万円に到達したの? うそ!」と返すと、「いやいや、4000万円だよ」と言われて。開始27分で達成してしまった。今でも信じられません。

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守屋 この初速が出たのは、田中さんの意志が周囲に響いた証拠だと思いますよ。事業のオーナーである自分自身が意志を持っていないと、周囲は共感も協力もしようがないですよね。田中さんは一本筋の通った意志があって、それを借りてきた言葉ではなく、自分の言葉で伝えてきた。だからこそ、破壊力が出たのだと思います。

田中 僕は2年前に、著書『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社刊)を出しました。生まれてはじめて出した本で紙と電子合わせて20万部近く売れたんです。ありがたいことに、Amazonの和書ランキング1位やトーハンの週間1位になって、母親に「こんなに売れているよ!」と新聞の切り抜きを送って喜んでいたくらいです。でも、蓋を開けてみると本を出したことによる収入は、電通で会社員として働いていた時の年収よりも少なかった。振込み明細を見て、本は100万部、200万部と売れないと、それだけで生活していくなんてできないんだ……と気付かされて。その背景には印税の上限が10%であるという日本の出版業界の慣習があるんですよね。「作家が執筆活動だけで食っていくには、この印税を見直す必要があるのではないか」と課題意識を抱き、そこから事業を考え始めました。

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