常識にとらわれない自由な働き方を知り、仕事の裏側に隠れた問題と向き合う。働くこと、仕事のことを考える、本を3人に聞きました。

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武田砂鉄 たけだ・さてつ
フリーライター。「女性自身」(光文社)など雑誌をはじめ様々な媒体に連載を持つ。著書に『わかりやすさの罪』(朝日新聞出版)、『紋切型社会』(朝日出版社)がある。

木村綾子 きむら・あやこ
文筆業。コラムの連載の他、イベントプランナーとしても活躍。蔦屋書店の企画と制作に携わる。主な著書に『いまさら入門 太宰治』(講談社)など。

野村美丘 のむら・みっく
編集業・ライター。写真家の夫とフォトスタジオ「photopicnic」を運営。著書に『わたしをひらくしごと』、編集した本に『暮らしのなかのSDGs』(ともにアノニマスタジオ)など。

固まった世の中を揺さぶる仕事。

『まともがゆれる』木ノ戸昌幸/著(朝日出版社)
木ノ戸さんは、自ら立ち上げた福祉施設スウィングの個性的な面々との日々を通じて、まとも/否まとも、常識/非常識、普通/特殊、障害あり/なしといった「境」に揺さぶりをかけまくる。それらは普段は「そういうことになっている」と蓋をしておくことで世の中が滞りなく進行する(と思われている)微妙な問題だけに、モヤモヤ、ムズムズ、ハラハラをおおいにはらむ。不完全で、弱くて、憎たらしくて、不恰好。でも、それこそが健全な真実なのではないか。(selector 野村美丘)

心地よい働きかたのお手本に。

『小さな泊まれる出版社』真鶴出版/著(真鶴出版)
神奈川県の西の端にある小さな港町の真鶴町に移住し、出版業と宿泊業を営むご夫婦が歩んできた約5年間の記録。お二人の考え方はいたってシンプル。それは自分たちが気持ちよく暮らしていける方法を見つけて実践すること。予想外の展開や失敗例も綴られているけど、それを乗り越えて進む前向きなパワーが頼もしい。予算と実績の表をはじめ、お金のやりとりをつぶさに公表するところも勉強になる。起業やコロナ以降の新しい生活様式への具体的なヒントが詰まった一冊。(selector 木村綾子)

たまに働く、素敵な移住。

『いま、台湾で隠居してます』大原扁理/著(K&B パブリッシャーズ)
17万円を握りしめて、台湾に移住、あまり働かずに、半ば隠居状態で暮らす。行き当たりばったりでなんとかして生活を続けていく様にヒヤヒヤしつつも、そこで出会った人たちが、とにかく良き方向に導いてくれる。奇跡の連続ではなく、暮らす人が実に当たり前に親切心を持っている。「日本で、生きてるだけなのになぜか人格否定される、暴言を吐かれるなどする方は、いちど台湾に来てみては」とのこと。たまに働く、という暮らしに焦がれてしまう。(selector 武田砂鉄)

天才と言われる人たちに学ぶ。

『天才たちの日課』メイソン・カリー/著(フィルムアート社)
ピカソやモーツァルトなど幅広い分野のクリエイター161人が、日々どのようなルーティーンで暮らし創作に向き合ってきたかを記す本書。ココ・シャネルや草間彌生といった143人が登場する女性に特化した続編をあわせて読めば、より立体的に天才の生活が分かる。仕事と生活にうまく折り合いをつけているバランスの良い人もいれば、極端に偏った人もいて境遇は千差万別。特に続編では女性という括りの中で発生する問題に向き合わざるを得ず、参考になることが多い。(selector 木村綾子)

 

常識を疑うことから始める。

『編集ども集まれ!』藤野千夜/著(双葉社)
芥川賞作家による自伝的小説。幼い頃から自分の性に違和感を持っていた一夫は、1980年代にJ保町にある出版社の漫画編集部で働くことになり、漫画家や編集者といったクセの強い人間と時代をともにする。個性を魅力に変えて生きる周囲の人たちを眩しく感じた主人公は、ある日思い切ってスカートを履いて出社するが、その行動は解雇という結果を招く。性別や普通や常識といった枠組みに抗う人を知り、そういったカテゴリーがいかに不要かを実感させられる。(selector 木村綾子)

原点に立ち返って考える。

『じょうぶな頭とかしこい体になるために』五味太郎/著(ブロンズ新社)
一応、子どもの疑問や悩みに五味さんが本音で答えるという体裁になっているのだが、どっこい社会人こそが手に取るべき内容。「何をしたいのか自分でわからない」「働かないで暮らしたい」「お金が欲しい」など仕事と直結している項目以外でも、違和感を流さず、建て前を剥がし、偽善を暴露し、ごまかしを指摘されるので、なんとなく周囲に順応してなんとなく毎日を生きているとガツンとやられる。同じく五味さんの『大人問題』(講談社)とセットでどうぞ。(selector 野村美丘)