「私のブランド」とは即ザッポスのブランドである。ツイッターを企業宣伝など戦略的に使うような安直なスキルを説くIT専門家もいるが、そんな考え方では揺るぎないブランドは形成できないし、170万人もの人の心は掴めない、ということだ。トニーは、人格形成の意義すらツイッターにはあると言う。
「不断に誰の目にもさらされている透明な存在として、ツイッターはまず、自分はいかなる存在でありたいのかをいつも自問する事につながる。2番目に、現実を違ったフレームで見ることが促される。三つ目に、他の人の人生にポジティブな影響を与えようという気持ちが強まる。四つ目に、人生の小さなことに気づき、それに感謝することが多くなるのです」
ベゾスと一緒に見る夢? 宇宙旅行とザッポス
今後ザッポスはどのような展開を見せていくのだろうか。
ザッポスの企業文化があらゆるサービス産業に適用できる普遍性を内在させていることは今や誰の目にも明らかだ。気の早い顧客からは航空産業やホテルビジネスに、ザッポスの「Wow!」を持ち込んでほしい! とリクエストをされることが多いとトニーは言う。そんな日がくることもあるかもしれない。
アマゾンのCEO、ジェフ・ベゾスはテキサス州に広大なロケット基地を建設済みで、すでに打ち上げ実験を何度も繰り返している。地球周回の宇宙旅行ビジネスに本格的に踏み込んでいる。
これはベゾスの学生時代からの夢で、単なる金持ちになったからの思いつきではない。「アマゾンはベゾスにとってはそのビジネスのための資金稼ぎ」と説明する事情通も複数いるほどなのである。

民間人を宇宙飛行士に仕立てて、小型宇宙船に乗るのに数千万円を支払っていただき搭乗させて、青い地球を目の当たりにする、という至高の体験を味わってもらうためには、スーパーハイテクノウハウと同時に、高額なダイヤモンドを売る以上のハイタッチなマーケティング、顧客サービスが欠かせない。
ヴァージン航空の会長、リチャード・ブランソンが宇宙ビジネスではアマゾンよりやや先行しているだけに、ベゾスは航空業界にトニー・シェイのカスタマー・サービス力を持ち込んで、その延長で、航空宇宙ビジネスの一翼を担わせる深謀も感じられる。
この点をトニーに聞くと、大きく笑ってこう答えた。
「ジェフとは、あまりそこまで深い話はしてないのです。でもそうなればいいですね」
彼も、航空業界への進出に関しては、これまで度々、興味があると発言してきた経緯がある。航空業界経由での宇宙旅行ビジネスの筋は、意外に近い将来、現実のものとなるかもしれない。
社員同士でヘアカットするイベントが毎年行われる。刈られているのはトニーCEO。剃った髪を人毛かつらを作るのに役立てるため、小児癌の支援団体に寄付する社会貢献でもあるが、"ちょっと変わっていて楽しい"のが大事なことだそう
〔取材・文:松村保孝 編集:新井公之〕