K-POP特有のお祭り期間:カムバック
K-POPの沼にハマると韓国語の波のなかで独特な単語を数多く耳にするようになると思うが、入門してすぐに出会うのが「カムバック」という言葉だと思う。
「カムバック(comeback)」は英語の意味そのままならもちろん「戻ってくる」ことだが、K-POPでは一般に新曲発表後の活動期間のことを指している。
新曲を出すことを「カムバックする」、その新曲をひっさげてテレビやラジオ出演、サイン会やコンサートなどを一気に行なう時期を(特に日本では)「カムバ期間」と呼ぶ。
であれば、「カムバック」ではなく単純に「新曲リリース」といえばいいのではとも思うのだが、日本と違うのは「カムバ期間」に対置される「空白期」が明確に存在しているという事情である。まるで水底深くから水面へと戻ってきて顔をぷはっと出すような語感が面白い。

AKB48立ち上げ時の「いつでも会いにいけるアイドル」というコンセプトは、好きなアイドルをいつでも安定的に見続けられることが価値を持つ日本のアイドル観を色濃く表していると感じる。
他方、韓国のアイドルとなると基本的にカムバ期間以外は目立った活動がなく、ファンとアイドルが会える機会も日本ほど用意されていない。
断続的にメディアに登場して新曲はまだかとファンを心配させるよりも、今から準備期間に入るとはっきり宣言しメリハリをつけるほうが、ファンの関心をより一層次のリリースに引きつけることができるからだ。
韓国のアイドルが長い練習生期間を経てデビューするのと同様に、デビューしてからも半年〜1年ほどの空白期間を作ってしっかりと新曲を制作する。その期間は日本のアイドルのようにバラエティの冠番組を持つこともない。
韓国にはアイドルの雑誌も少なく、いまでこそSNSによってアイドルの近況や私生活を簡単に知れるようになったものの、ネット配信が登場する前はテレビ露出がほとんどなかった。
空白期間が存在しているからこそ、ファンはアイドルの帰還を指折り数えて待つ。カムバックの始まりにはまずティザーの予定表が発表され、ファンはその時間に立ち会おうとスケジュールを調整する。
その後はアドベントカレンダーのように、ティザーで毎日、生まれ変わったアイドルの新しい写真や動画が少しずつ公開されていく。ついにはMVが解禁され、連日の音楽番組への出演が始まる。
その「出勤(チュルグン)」風景や番組後のミニファンミーティングをファンが撮影してSNS上にガンガン公開し、音楽番組のYouTube公式チャンネルにもダンス動画とチッケムがアップされる……。本当に怒濤の帰還(期間)なのだ。