「個体数70%減少」の衝撃
鳥島のアホウドリは、長谷川さんらの保護活動の成果もあり、絶滅の危機から回復に向かっている。
だが、長谷川さんによれば、漁網にかかって死ぬ「混獲」や、魚類を一網打尽にする漁業によるエサの激減、繁殖地に持ち込まれたネズミ類などの動物による捕食や環境改変が大きな原因となって、この60年間で世界の海鳥類の個体数が70%も減少していると推定されている(以前に執筆した記事〈「346分の97」が絶滅危惧種! 地球から海鳥が消えていく〉を参照してほしい)。
さらに、人間活動による脅威にさらされている海鳥類に追い打ちをかけるように、プラスチック汚染という「見えない危機」の波がじわじわと押し寄せている。
長谷川さんは、会長を務める特定NPO法人「OWS」の季刊誌「Ebucheb(エブオブ)」でこう書いている。
「人間が排出した厖大(ぼうだい)な量のプラスチック類が海に流入し、海鳥類の生存に影響を及ぼしている」
海鳥などの海洋生物がプラスチックを摂食している事実は、20年以上前から知られている。日本学術会議は2020年4月7日の提言で、「1997年の時点で177種の海洋生物の摂食が報告されていたので、現在では200種以上の生物がプラスチックを摂食していると考えられる」と指摘し、なかでも海鳥の消化器からは、ミリメートルサイズからセンチメートルサイズのプラスチックが検出されるケースが多いとしている。
年間数億トンのプラスチックが海へ!?
プラスチックは、どのくらいの量が海に流れ出ているのだろうか。
確かな数値はないが、アメリカの研究者は、2010年の1年間だけで480万~1270万トンが海に流出したと推定している。しかも、海洋のプラスチックは20世紀後半から累積しつづけ、"レガシープラスチック"となっている。適切に管理されず、環境中に排出されるプラスチックが増えつづけると、2025年には、流出量が年間数億トンのレベルにまで膨れ上がりかねない、とその研究者は警鐘を鳴らしている。
海に流出するプラスチックは、ペットボトルやレジ袋といった包装容器だけではない。洗顔料や化粧品に含まれている細かいプラスチック粒子(マイクロビーズ)や、化学繊維の服から洗濯中に出る微小な繊維片(プラスチックの一種)が下水処理場で処理できずに海に流れ込む。
プラスチック製品の中間原料である「レジンペレット」も、輸送・生産工程で環境中に漏出する。
自動車タイヤにも、やはりプラスチックの一種である合成ゴムが含まれている。自動車の走行中、タイヤは道路との摩擦で細かいゴム破片を出しているが、道路上に落ちた破片は雨水で流され、河川を経て海へと流れ着く。

海に流れ込んだプラスチックがすべて、ずっと海面に浮かんでいるわけではない。比較的大きなもの(「メソプラスチック」ともいう)は海上を漂い、浜辺に打ち上げられたり海に戻ったりしているうちに、太陽からの紫外線や波に洗われるなどして壊れ、小さくなっていく。
研究者らは、大きさが5mm以下のプラスチックを「マイクロプラスチック」とよぶ。マイクロプラスチックは、比重や付着物、海流の影響から、もともと細かい繊維片などとともに、海中で浮遊したり海底に沈んだりしているといわれている。
大きいプラスチックは大型の海洋生物に誤食されることが多く、アホウドリも破片化したプラスチックをエサと間違えて食べてしまっている。一方のマイクロプラスチックは、オキアミ類やカイアシ類の動物プランクトン、ムール貝などの生物の体内に摂り込まれていることがわかっている。
本来は自然界に存在しなかった「異物」は、食物連鎖によってサケやオットセイなどの海洋生物にも広がっていると見られている。
体内に摂り込まれたマイクロプラスチックは、生物にどのような影響を及ぼすのか?