2002年の刊行以来、多くの人に読み継がれてきた本書の「良書たるゆえん」と、本書が提示する「新書の可能性」とは、一体どのようなものなのでしょうか。
「良書」たるゆえん
いつのことだったか、編集者の方と話していて、加藤陽子『戦争の日本近現代史 東大式レッスン! 征韓論から太平洋戦争まで』(2002年)のことを良書と言った。講談社現代新書で近代日本関連の著作といえばまずはこの本が思い浮かぶ、くらいのことも言ったかもしれない。その結果、この文章を書くこととなった。
同書についてそのように思っているのは本当である。しかしながら、良書たるゆえんがどのあたりにあるのかというのを改めて言語化しようとすると、結構難しい。以下それを少しずつ解きほぐしてみたい。
講談社現代新書中の一冊として
年代によって多少違いはあるものの、岩波新書や中公新書と比べると、講談社現代新書は近代日本に関する著作が豊富というわけではない。
ただ、軍事・安全保障は別である。一つのジャンルとして確立している昭和戦前期や社会史的アプローチの本以外でも、小林道彦『近代日本と軍部 1868─1945』(2020年)、手嶋泰伸『日本海軍と政治』(2015年)、川田稔『戦前日本の安全保障』(2013年)、黒野耐『参謀本部と陸軍大学校』(2004年)などがすぐに思い浮かぶ。講談社現代新書の得意分野といってよいだろう。加藤『戦争の日本近現代史』も、その代表的な例である。
さらに講談社現代新書中の一冊という観点から考えると、加藤『戦争の日本近現代史』の前に、野島博之『謎とき日本近現代史』(1998年)があるのを見落としてはならない。
そもそも、書名が似ている。9つの問いで章を構成して講義調で論じるスタイルや、各項の末尾に参考文献を挙げる形式も、同じである。
ちなみに、鈴木眞哉『謎とき日本合戦史 日本人はどう戦ってきたか』(2001年)のように、野島『謎とき日本近現代史』から「謎とき」という書名の方を引き継いでいる著作もある。こちらは、論述のスタイルは似ていない。ただ、設定されている問いの数は、やはり9つである。3冊が偶然一致したとは思えないので、編集サイドの意向でそろえたのだろうか。面白いこだわりである。