日本のスポーツ界は変わらなければいけない。発売中の『ほめて伸ばすコーチング』から、スポーツ環境の改善に役立つ提言を公開。>今までの連載はコチラ
なぜ日本の子供はコーチに怯えるのか?
1978年、1986年と2度ワールドカップを制し、マラドーナ、リオネル・メッシを生んだ南米の強国、アルゼンチンからやって来たセルヒオ・エスクデロは、日本サッカー界の問題点を常々感じる。
「サッカーって楽しいものです。でも日本では、コーチに怯えながらやっている子が多い。僕は、そんな光景を見る度に心を痛めてきました。20年以上もですよ。

例えば高校生の走り込みです。真夏の炎天下で、10キロメートルを何分以内に走らなければチーム全員が罰としてその倍の距離を走る、なんていうメニューを課していますが、間違った指導です。変なところで根性を付けようとしますよね。
加えて、日本の高校ではフィールドプレーヤーとGKが同じ距離を走りますが、そんな練習は必要じゃないです。自分の100パーセントで頑張ればいいんですよ。ただ、体力がなければ試合で厳しいよ、というのは分からせなきゃいけない。だからスタミナが足りない子には、全体練習後にダッシュを20本やりなさい、30分ランニングして帰りなさいって、個別メニューを与えるべきなんです。僕はそうしてきました」
日本という小さな国のコーチライセンスで満足し、視野を広げずに己が教わったことをそのまま伝えている者を見ると、溜息しか出ないという。
「アルゼンチンのコーチライセンスと日本のライセンスは、非常に大きな違いがあります。僕が特に疑問を感じるのは体罰問題です。アルゼンチンで暴力を用いたら、指導者は続けられません。言語道断ですよ。それでも日本では基本的に、学校側が暴力監督を守るんですよね……。大した反省もさせないうちに、また指導する場所を与えてしまう。
さすがにもうプロの世界では無いでしょうが、今でも暴力を持ち込む監督がたくさんいます。高校サッカーの現場で何度も目にしました。そういう指導者に言いたいのは、選手を殴ったり蹴ったりすれば、その子の技術が上がるのか? ということです。『シュートを外した子に監督が暴力を振るえば、次からシュートが決まるんですか?』『トラップをミスった子に蹴りを入れれば、その子は次からきちんとボールを収められるんですか?』。
ミスをした原因を分からせ、課題を与えて練習させることが大事なんじゃないですか? こんな類の指導者と付き合っていたら、選手たちはサッカーが嫌いになってしまいます。日本の子供たちはミスをすると、試合に出られなくなる。シュートを外したら怒られると、大人の顔色をうかがいながらサッカーをしています」