2021.06.19
# 日本経済

米国企業が「デフレ」に強く、日本企業が「インフレ」に強い、納得の理由

日米にそれぞれ適したやり方がある
大原 浩 プロフィール

マニュアルはコピーできるが暗黙知は真似が難しい

確かに、「スピード」が要求されるデフレ型経営において、マニュアル化、さらにはデジタル化で「定型化」したものは便利だ。明文化され誰にもわかりやすいということは、情報伝達のスピードも速いということだ。特にデジタル化すれば、コピペで一気に広がる。

しかし、「情報が伝わった」だけで物事が動くというのは、机上の空論で固められた法案を作成して国会を通せば自動的に国政ができると考える官僚の思考方法だ。

マニュアルも、作成することそのものは簡単だ。しかし、「マニュアルに杓子定規な運用」が無数の問題を引き起こすことは、読者も良くご存じであろう。実際のビジネスでは、マニュアルに書かれていないことが重要であり、それが「暗黙知」なのである。

例えば、リストラを行えば、作成したマニュアルはそのまま会社に残るが、人材に付随した「暗黙知」はすべて失われ、取り返すことができない。

また、マニュアルは(盗まれて)コピーされれば一巻の終わりである。デジタルデータも同様だ。

しかし、「暗黙知」はそれぞれの頭の中に存在するから、コピーはできない(SFの世界なら別だが……)し、「集合知」でもある。

「集合知」とは、多人数がコミニュケーションすることによって初めて機能する「知恵」だ。暗黙知は見えないコンセンサスを多くの人々が共有するということが大前提だから、1人2人をヘッド・ハンティングしても真似ができないというわけである。

従業員まるごと買収しても、新しい経営者は「暗黙知」を共有できないから、結局使いこなせない。

 

マニュアル経営は、「マネされる前に成功しないといけない」から、必死になってスピードを追求するのは当然だ。逆に「暗黙知」をベースにした日本型経営は、真似されないからじっくりと構えれば良いのである。

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