万引き多発、店舗閉鎖続出で岐路に立つ「バイデンの人権擁護政策」

弱者救済か治安維持かの選択再び
安田 佐和子 プロフィール

取り締まりは人種差別助長か

小売業者が取り締まりの網を弛めた理由は、もう1つある。店内で、万引きの疑いのある人物の特定、聴取などの行為が人種差別につながるとして、訴訟リスクをはらむようになったためだ。

大手百貨店メイシーズは2014年8月、人種に基づき万引き予防策を展開していたとして、NY州司法長官と65万ドルの和解金支払いと、人種を選別したと連想される万引き予防策の改善で合意した。

同様のケースはそれ以降も確認され、2018年にはカリフォルニア州に居住する黒人女性が、人種を理由に警備員に万引きの疑いを掛けられたとして同社を訴えた。こうした訴訟はメイシーズに限らず小売業者で幅広く発生しており、薬局チェーン大手CVSやスポーツ衣料大手ナイキなども対象となっている。

カリフォルニア州以外でも、人権保護の観点から万引きの取り締まりは緩和されてきた。リベラル派が多いイリノイ州で2016年12月、クック郡のキム・フォックス主席検事により、万引きを「重罪」とする分岐点を被害額300ドルから1000ドルへ引き上げられた。

保守派が多いテキサス州ダラスでも、同郡地方検事のジョン・クルーゾ氏が2019年5月、万引きを始め「軽微な犯罪を起訴しない」と宣言し、議論を巻き起こした。2人はそろって、前任の共和党検事から選挙で勝ち上がった就任した民主党検事である。

マサチューセッツ州でも万引きが多発しているせいか、ボストン・ヘラルド紙は2020年4月に編集委員の連名にて「小売業者を支援し、万引きを終わらせよ」との社説を掲載。コロナ禍で大打撃を受けた小売業者の救済と、年間10億ドルもの窃取被害を食い止めるため、万引き犯を逮捕すべきだと主張した。

 

同州では、万引き初犯で窃取品が100ドル以下ならば250ドルの罰金、2回目なら500ドル、3回目ならば1000ドルの罰金に加え、最大で2年半の懲役が科される。それでも、万引きが後を絶たない様子が浮き彫りとなっている。なお、NY州ではイリノイ州と同様に1000ドル以下であれば軽罪として扱われる。

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