万引き多発、店舗閉鎖続出で岐路に立つ「バイデンの人権擁護政策」

弱者救済か治安維持かの選択再び
安田 佐和子 プロフィール

「人種差別的」な警察への締め付け

2020年の大統領選で勝利したバイデン氏は、ミネソタ州で発生した警官による黒人男性暴行死事件を受け、人種差別的で不適切な対応を理由に、選挙中から「警察の予算削減(defund the police)」を掲げてきた。こうした流れを受け、2020年には民主党地盤の州を中心に警察予算の削減が実施されてきたが、万引きを始め数々の犯罪が増加中で、情勢は一変している。

NY市は一旦廃案となった警察署の増設として再び9200万ドルを充てた。ロサンゼルス市でも、2020年に警察予算を1.5億ドル削減した後、2021年に5000万ドルの増額を提案。メリーランド州ボルティモアでは、2020年に2300万ドルが削減されたが、2021年にはそれを相殺する2700万ドルの上乗せを求めた。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙によれば、全米の主要な約20地域での警察予算のうち、5月後半時点にて警察予算を引き上げたのは9地域で、それぞれ前年比1~6%増加させたという。

90年代初頭の景気後退を経て、1994年にNY市長に就任したルディ・ジュリアーニ氏は、窓割れ理論(割れた窓を放置が他の窓を割られやすくしてしまうとの理論を実践、転じて軽罪の取り締まり強化を通じた重罪の抑止)に則し、環境から犯罪取り締まりを強化した。万引きを始めとした刑罰の緩和や警察予算の削減は、この逆を行く動きだ。ただ、こうした流れがいつまで続くかは未知数である。

現時点で、米国人は治安悪化を深刻に捉えている。

3月1~2日にUSAトゥデー/IPSOSが実施した世論調査では、「警察予算の削減に賛成」との回答は18 %に過ぎない。ただ、「警察予算の削減に反対」との回答は白人で67%、共和党支持層で84%に対し、黒人は28%、民主党支持層は34%で、それぞれの亀裂の深さは一目瞭然だ。

一方で、5月24~26日にヤフーニュース/ユーガブが実施した世論調査で、新型コロナウイルス、経済、人種関連、ポリティカル・コレクトネス、凶悪犯罪の5項目うち「非常に大きな問題」としてトップに挙がったのは「凶悪犯罪」で39%と、前年7月時点の3位から上昇した。「新型コロナウイルス」(32%)はもちろん、「経済」(39%)や「人種関係」(41%)を上回る。

中間選挙の行方を占う上で注目されたNY市長選では、人種・経済格差に配慮しベーシック・インカムを提唱した台湾系米国人のアンドリュー・ヤン氏が敗北し、治安悪化を受けニューヨーク市警の元警察官、エリック・アダムズ氏がリードした。

 

米国という名の振り子は、これまで右へ左へ大きく揺れてきた。バイデン政権下で大きな政府へシフトすると共に弱者救済を目指す国となった今、中間選挙で現状維持を選択するのか、はたまた急旋回するのか。その行方は、2022年の無党派層の動向に掛かっている。

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