え?筋腫?肉腫?16センチ!?
「悪性腫瘍の疑いが強いため、早めの手術を勧めます。とにかくこれは早い方がいいですね。最短だと10日後に入院できますがどうしますか」
そう告げられたのは、2年前の6月30日のことだった。
え? 何のこと? 誰のこと? と医師の話が頭に入ってこない。10日後? 早い方がいいってそんなに悪いの? 人は最大のピンチになると顔に力が入らなくなるという。私も同様で、表情筋が緩んでしまった。こんなときに笑ってはいけないのに、と変なことを思ったことを記憶している。
とにかくメモを取らなくては、正確に医師の話を聞かねば、と思いながらもバッグの中からメモが取り出せない。自分の手が震えていることにそのときはじめて気がついた。ちなみに私は、雑誌や書籍の編集者として、30年近く医療の記事を多く作ってきた。メモを取るのはいつものことのはずなのに、いざ自分のこととなるとこうなってしまうのか。
「先生、悪性腫瘍って、がんなんですか?」と意を決して聞くと、「肉腫」と呼ばれる悪性腫瘍の可能性が高いという。場所は子宮上部の外側だった。
「良性の子宮筋腫なのか、正確な判断は開いて病理検査をしてみないとわかりません。でも、握りこぶし大にまで大きくなっていること、また画像でみた状況に心配な箇所があります。手術前に詳しい検査も行っていきますが、肉腫の疑いは強いです」
「肉腫」とは、国立がん研究センターの希少がんセンターの解説によると、全身の骨や軟部組織(脂肪、筋肉、神経など)から発生する悪性腫瘍の総称のことをいう。私自身、医療系の取材が多いので肉腫の存在は知っていたが、比較的稀な腫瘍と言う程度で詳しいことを正直知らなかった。まさか自分が、肉腫の疑いで、手術を受けることになるだなんて……。
「腫瘍部分が大きいので、その部分だけ取り出すことはできません。さらに、腹腔鏡下手術で切ってしまうと悪性の場合は、内部にその組織がこぼれてしまうので、手術は開腹手術のみになります。また、これはもう少し検査を重ねて結論を出してもいいですが、位置的に卵巣も摘出する可能性があるかもしれません。術後は抗がん剤を使う場合もありますが、肉腫は抗がん剤が効かないケースもあります。一概には言えませんが、その後の治療が厳しく難しいケースもあります」

「今や2人に1人はがんになる時代」「誰もがなる可能性があるのだから慌てない」と過去に何度も自分で原稿を書きながらも、現実に起こってみれば慌てることもできず、ただただ放心してしまった。病院から自宅まで約1時間、どうやって帰ったのかよく覚えていない。