2021.07.01
# 宇宙科学

「火星移住」本気で進めるイーロン・マスク。だが、惑星移住の本命は、まさかの「金星」だった!

川口 友万 プロフィール

人間を阻む宇宙の壁

しかし宇宙は過酷だ。もっとも問題になるのが放射線である。

2013年6月、火星探査車『キュリオシティ』に搭載した放射線測定器の数値の分析結果が発表され、地球から火星へ向かう宇宙船内部には予想以上に高レベルの放射線が降り注いでいたことがわかったのだ。

キュリオシティが地球から打ち上げられ、火星に到着する253日の間に浴びた総放射線量は466ミリシーベルトなので往復では900~950ミリシーベルトになる。一般に医療的に危険とされる年間被ばく量が1000ミリシーベルト=1シーベルト以上なので、かなり危険な水域だ。ちなみに一般的に許される被ばく量は年間1ミリシーベルトである。

しかも火星は大気が薄いので、地球上と違い、桁違いの放射線が降り注ぐ。長期滞在となれば、現在の放射線対策では心許ない。

[PHOTO]gettyimages

無重力~低重力の影響も無視できない。長期間の無重力環境は人体を急速に老化させる。重力の負荷がかからないために筋肉が萎縮し、骨からはカルシウムが流れ出して骨粗鬆になる。

さらに東北大学の研究チームが国際宇宙ステーション『きぼう』でマウスを飼育、代謝や遺伝子の変化を調べたところ、抗酸化タンパク質Nrf2の遺伝子が活性化していることがわかった。つまり体内で急速に細胞が酸化し、それを食い止めようとNrf2の生産が急増したわけだ。体内で酸化が進むと細胞が死に、老化が進む。つまり宇宙では体の内側でも老化が進むのだ。

 

老化によって肥大する白色脂肪細胞も肥大化しており、老化の加速を裏付けた。

無重力は目の健康被害も引き起こす。これは視覚障害脳圧症候群といい、無重力下に長くいると脳圧(せき髄液という説もある)が上がって眼球を圧迫、眼球の一部を元に戻らないほど変形させてしまう。

その結果、視力が大幅に低下など視覚に健康被害が出る。視覚障害脳圧症候群には、国際宇宙ステーションに長期滞在した宇宙飛行士の約3分の2がかかっているという。

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