マンガ/原作・原田重光 漫画・乙川灯 監修・清水茜(『はたらく細胞』)
出産して分かった全く違う「変化」
2人の子の母である編集部スタッフが初めて出産したときのこと。
それまで幸い元気に妊婦生活を送っていたのだが、それゆえに無茶をしたからか、予定日より3週間早く破水し、緊急出産となった。その話は長いので割愛するが、驚いたのが「産後」だった。
え、産後の身体ってこんなに変わるの? と。
なかった命が胎内に芽生えてそれが育ち、体外に出たのだから、変化はあるのは当然だろう。でもよく言われる「お腹の皮がタプタプになる」といったくらいの変化しか想像をしていなかったのだ。
まず、産後なぜか痛かった。とくに帝王切開の場合はそれが強いそうだが、これは「後陣痛」と言われているらしい。そして出血があり、生理用ナプキンでは追い付かなくて大人のおむつをした。これは「悪露」と言われているものだ。ちなみに第二子のときは生理用ナプキンも小さいもので大丈夫なくらい悪露は少なかったのだが、第一子のときは骨盤にも痛みを感じ、歩くのも困難な状況だった。
何より、それまで徹夜も厭わず仕事をしてきたので「授乳は余裕」と甘く見ていたのが、やたらと疲れやすくなり、思うように体が動かなくなった。予定していた「自分の力」が完全に機能しなくなっていたのだ。普通に歩いたら余裕で間に合う場所に移動する予定が、松葉づえの身体になって絶対間に合わないと絶望する気分である。
なんだこれ、前の自分とまったく違う!!! これは自分が悪いのか?
そんな女性の身体の中で起きている変化が「細胞レベル」で描かれているのが、『はたらく細胞LADY』3巻に収録されている第15話「マイレディ」だ。
細胞レベルで「なぜ変わったのか」がわかる
『はたらく細胞』といえば、2015年3月から連載され、2018年よりアニメ化もされた清水茜さんの漫画。もともと清水さんが当時高校生の妹から「細胞について覚えたい」と依頼されて細胞を擬人化して描いたのがきっかけだそうだが、赤血球さんたちや白血球さんたち、血小板さんが大活躍し、「生物の授業の1000倍面白くてわかりやすい」と言われている。そして他の漫画家の方や小説家が『はたらく細胞』のスピンオフ作品を清水さん監修のもとに執筆、多くの「はたらく細胞ワールド」が展開しており、累計発行部数は450万部を超えている。
たとえば、『はたらく細胞BLACK』は大人の男性の「はたらく細胞」に特化した作品で、初嘉屋一生さんが作画を担当。清水茜さんが監修をつとめている。2018年から連載、喫煙・飲酒・ED・水虫・胃潰瘍・円形脱毛症など、男性の悩み満載の「使える」漫画と話題だ。
その「女性版」と言えるのが、2020年から連載されている『はたらく細胞LADY』である。原作は『はたらく細胞BLACK』と同じ原田重光さん、作画は乙川灯さん、もちろん清水茜さんも監修に入っている。冷え性や生理など女性の身体特有のことが描かれているが、セックスのときに女性の身体にどんな変化が起きているのかということを描いた2巻9話もSNSでも大きな話題になった。
そして、先日発売となった第3巻は1冊丸ごと妊娠・出産・そして産後が描かれているのだ。その中で15話「マイレディ―」は「産後の変化」について細胞レベルで描かれている。
産後にお腹が痛かったのは、伸び切った子宮がもとに戻ろうとして収縮するからだったし、悪露が出るのは胎盤がはがれたことで傷口が生じているから。出血を防ぐように一生懸命血小板が修復作業をしてもすぐには間に合わないので、出血はひと月以上続くこともある。出産で骨盤底筋の筋細胞が伸び切ってしまったから、尿漏れなども起きやすくなる――。それぞれの細胞もヘトヘトになりながらも、なんとか修復しようと必死なのだ。

母親になっても「ケアすべきLADY」
産後の女性の身体は、「修復」できればケアが終わりなのではない。
修復しきれていないときにも授乳中に細菌が胎内に侵入して乳腺炎になってしまったり、ホルモンバランスが崩れてマタニティブルーになったりもする。細胞たちは自分たちを修復しながらも、さらに襲う変化に必死で対応しようとする。当然、その間に風邪をひくことだってあるだろう。まだ万全でないときにも様々な要因は母体の健康を脅かす。
細胞たち、頑張ってる……。
『はたらく細胞LADY』のなかで、免疫細胞のマクロファージさんはこう言う。
「大切なお姫様の母親になったとしてもお嬢様はお嬢様……
私たちがお仕えすべきレディなのです――」

産後も、産前からそうであるように、母体の細胞は全力で頑張っている。でも「体内だけ」で頑張らせるのは、限界がある。産後の母体健診は1ヵ月健診で終わりになる。その後、健康のチェックアップは自己責任だ。しかし歯を磨く時間がない、お風呂に浸かる時間がない、ご飯をゆっくり食べる時間がない――その繰り返しでいっぱいいっぱいだと、子どものいる母は「自分のことは蔑ろ」にしてしまいがちだ。
ある自治体では、新型コロナワクチン接種のために子ども預かりサービスを行うところもあるという。身体がボロボロなのに自分のケアをするのが難しい現実を周囲が理解し、母体のケアをする余裕を作ることも、とても重要なことだと、細胞は教えてくれるのだ。