資産運用トラウママップが示す、失われた30年、日本人の世代別傷跡

投資に消極的なのは国民性ゆえではない
高田 創 プロフィール

傷跡がほとんどない米国版株式市場トラウママップ

次の図3は、米国市場で同じ株式市場のトラウママップを作成したものである。一見して明らかなようにほとんどトラウマはない。

トラウマ状況に加え、米国では長期投資利回りは押しなべて5%を超える水準で安定している。米国では長期的な利回り水準が日本に比べ格段に高い水準で安定し、損失のトラウマの時期がほとんどなく、さらにその環境が40年近く続けば資産運用意識が定着し、貯蓄から投資への資金フローが定着するのも無理ない。

米国での資産運用業の広がりは、ファイナンス理論や経済学的リテラシーの次元より、長い年月にわたって培われた投資カルチャーによって出来上がったものと考えられる。

■図3 米国版、株式市場トラウママップ

(出所:Refinitiv 作成:岡三証券 マップ内数値はS&P500を1pt=1ドルで購入できると仮定し、ドルコスト平均法で毎月一定額買い付けた場合の期間別リターンの複利年率換算値で、単位は%。配当は考慮していない。各投資開始時点は、各初年度の1月末。その後は12月末時点を用いて算出。トラウマ期間は投資期間におけるマイナス利回りの年の比率を示す。)

日米のトラウママップ比較

以下の図4は先の日米の資産運用トラウママップからその特徴を比較したものである。米国は長期投資の利回りが高めで安定し、しかも損失のトラウマの局面が限られている。

一方、日本は長期投資の利回りが低くばらつきがあり、更に損失のトラウマの期間が極端に長い。その結果、両国では資産運用へのカルチャーが醸成されにくく、貯蓄から投資の状況に大きな差が生じる結果につながった。

 

■図4 日米のトラウママップ比較

(出所:Refinitiv 作成:岡三証券 日経平均株価をドルコスト平均法で毎月一定額買い付けた場合の期間別リターンの複利年率換算値。マップ内数値の単位は%。配当は考慮していない。各投資開始時点は、各初年度の1月末。その後は12月末時点を用いて算出。トラウマ期間は投資期間におけるマイナス利回りの年の比率を示す。)

若者世代は日米の環境に大きな差はないが

ただし、2003年以降、日本の雪解け世代・アベノミクス世代、米国でZ世代とかミレニアム世代とされた世代に限定すると、両国にはそれほど大きな差は確認できない。Z世代やミレニアル世代に相応する、日本のアベノミクス世代や雪解け世代は、日米共通でデジタルネイティブでもあり、それまでの世代とは発想が異なる可能性がある。

さらに、日本の場合トラウマの有無という観点からもそれまでの世代との断絶が生じている可能性がある。

米国ではZ世代・ミレニアル世代の上に控える世代に、トラウマがない資産運用カルチャーを有するなか、その世代が作り上げる資金フローが市場全体の好循環を作りあげて投資カルチャーやインベストメントチェーンを実現している。

日本では、若者である雪解け世代やアベノミクス世代は米国と類似した環境にありながらも、残念ながらトラウマを背負った氷河期・トラウマ世代に“scarring effect” 、「心の傷」が生じたことで市場全体の行動変容が進まずインベストメントチェーンが実現できていない状況にある。

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