資産運用トラウママップが示す、失われた30年、日本人の世代別傷跡

投資に消極的なのは国民性ゆえではない
高田 創 プロフィール

相続では資産が現預金になってしまう不安も

以上のトラウママップが示すことは、トラウマをほとんど経験しない新たな世代へと金融資産を移転させることの重要性にある。

制度的には相続を通じた動きが考えられ、例えば80歳代の高齢者は50歳代への相続(80-50相続)になりやすく、70歳代は40歳代(70-40相続)へとなりやすい。トラウママップの欄外に位置する70代以上の高齢世代は日本でも若者時代に資産運用の成功体験を有しただけに、比較的、株式等リスク資産保有が多いとされる。

ただし、「80-50相続」では、50歳代のトラウマ世代に、「70-40相続」では40歳代の氷河期世代と、資産運用にトラウマをもった世代へと資産移転が行われた場合、株式等の金融資産は現預金に換金されやすく株式市場からの資金流出になりやすい。

不動産の場合、相続税評価額は、土地であれば路線価(実勢価格の約7-8割程度)で評価され時価よりも低く評価される。一方、株式の場合、時価が用いられるため相続上、不動産に比べ不利な扱いになりやすい。

今後、株式の相続税評価額を不動産並みの実勢価格7-8割程度に引き下げることも選択肢になるだろう。また、長期株式保有に対する譲渡所得税の軽減や損失控除(損益通算の拡大)等が検討される。

若者世代への資産移転に必要な国民総株主の発想

そこで、もう一段世代を飛び越しアベノミクス世代・雪解け世代に資産移転が進むような対応も必要になり、同時に、若者世代の資産形成を支援する対応が必要になる。

具体的対応として、若者世代への生前贈与を円滑にする仕組みも重要で、既に教育資金贈与の形で対応がなさるが更なる制度対応も必要になる。若者層の資産形成には既に積立NISAなども存在するが、もう一段支援することも重要になる。

日本にこれだけ強いトラウマが生じてしまったことを前提に今後の株式保有に対する制度支援を行うことも必要と考えられる。株式保有策はこれまでとかく「金持ち優遇」との議論で退けられることが多かったが、資本主義の基本となる国内での株主育成の観点からも国民総株主での発想が必要になるのではないだろうか。

戦後、資金不足期には国民経済的な観点から貯蓄増強の名の下に、国民に貯金に対する税制上のインセンティブが「マル優」(少額貯蓄非課税制度)として行われていた。今日、不足するのが「資金」から「資本」に転換したなか、国民経済上、国民に株式保有のインセンティブをもたせる「株式版マル優」の制度も必要とも考えられる。

 

高金利時代には非課税だけでも大きなメリットがあったが、今日、金利がなくなった時代には一段の国民の株式保有促進のサポートも必要とも考えられる。以上のように資産運用をサポートするカルチャーが官民で共有された状況を日本でも作り上げる必要があるだろう。それは、長期投資によって自らの年金や資産運用を重視する国民を挙げたコンセンサスの確立にある。

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