死者に「憑依」される現象の実態とは 津波の犠牲者に憑かれた女性の記録

今でも「憑依」される人は存在している

「海外でも古い記録はあるのですか?」

「あります。紀元前のメソポタミア、エジプト、アラビアなどでも記録されていますし、古代ローマ時代にもありました。紀元前のギリシアでは、シャーマンのような女性が洞穴に入って死者や神々に憑依されてしゃべるという儀式がありました。中国では亀の甲羅を割って、神がかった人に占ってもらう儀式もありました。この現象は普遍的なもので、どこの部族や民族にも古くからあります。霊の世界を知りすぎて、政治や社会がそれに振り回された歴史もあります。中世ヨーロッパの暗黒時代がそうだし、ロシア革命の前までラスプーチンが帝政ロシアを振り回したのもそうです」

ラスプーチン(photo by Wikimedia Commons)

亀甲占いは、天皇の代替わりに伴う大嘗祭でも行われている。神々に供える米をつくる「斎田」の場所を、亀の甲羅を焼いて占う「亀卜」で決めるもので、日本でも古代から行われてきた。

「憑依された時に行う除霊の儀式は海外でもあるのですか?」

「多くの民族宗教にあると思います。ほとんどの民族が、死は終わりではないと信じているからです。ただユダヤ教は、基本的に霊の存在を否定しています。そのくせ、除霊に対する禁止令はちゃんとあるんです。矛盾していますよね」

「憑依」は病気ではない

高村さんが憑依された時、憑依した人の言葉と思われる、高村さんが知るはずのない方言でしゃべったことを説明すると、ベッカー教授はこんな体験を語ってくれた。

「ある大学院生を下北半島に連れて行き、イタコと呼ばれる目の見えない70代ぐらいのおばあさんと話をさせました。その時、イタコは院生のおじいさんのような声に変わり、それも九州の方言で、過去にこの学生の家であった特殊なことをしゃべりました。本人は驚いて九州に住む祖母に電話をかけ、実際にこんなことがあったのかと尋ねたら、祖母は『うちだけの秘密にしていたのに、なんで孫のあんたが知ってるのか』と言ったそうです。もちろんこのおばあさんのように、イタコがみんな正確に当てるわけではなく、ピントが合っていたのはこの方1人だけでした。だからといって、おじいさんがこのイタコに憑依してしゃべったのかどうかはわかりません」

「でもそういう人がいることは確かですね」

「憑依が千人に1人なのか万人に1人かはわかりませんが、そういう現象があることは確かです。憑依された彼女(高村さん)を見て、津波で亡くなられた方が今もどこかで生きているんだ、彼らをお浄土(仏の世界)に導いてもらい安心したというのは、それはそれで素晴らしいと思う。でも、その安心と、お浄土の所在の証明とは別のことです」

「高村さんは、自分が精神病ではないかと苦しんできました。他の国ではどうですか?」

「ドミニカ共和国やスリランカでは憑依現象が多いので、人類学者が憑依されやすい人たちを対象に、精神疾患の診断マニュアルを使って比較した調査があります。それによると、憑依されやすい人たちに、精神異常の傾向があるわけではないとわかりました。憑依されたからといって、精神異常とは言えないということです」