好評シリーズ「WPI世界トップレベル研究拠点」潜入記 第9回!
WPI(世界トップレベル研究拠点プログラム)は、異なる研究分野間、言語と文化の垣根を超えて世界の英知が結集する、世界に開かれた国際研究拠点を日本につくることを目指して2007年、文部科学省が策定した研究拠点形成事業で、2021年現在、全国に13研究拠点が発足しています。
9回目となる「潜入記」の舞台は、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)。ここに新たな分子を開発することで、アフリカの食糧問題と対峙している気鋭の生物学者がいると聞き、土屋雄一朗特任教授と森川彰特任講師にお話を伺いました!
年間被害額は1兆円!美しい花畑がもたらす悲劇
ここに一枚の写真がある。

写し出されているのは一面ピンクの花畑。何も知らなければ、のどかで自然豊かな風景だ。花の名はストライガ(Striga)という。別名、『魔女の雑草』。なぜそんな名で呼ばれるのか。アフリカの地に住む人々にとって、この美しい花は悪夢のような現実をもたらす「魔女」だからである。
ストライガは、アフリカで生産される主要穀物であるトウモロコシやソルガム(モロコシ)に寄生してそれらを枯らせてしまう「寄生植物」だ。その被害額は年間1兆円にものぼると言われている。SDGs(国連『持続可能な開発目標』)の2つめに「飢餓をゼロに」という目標が掲げられているが、まさにアフリカはこの目標の対象となるエリア。極端な人口増加に伴う深刻な食糧不足に恒常的にさらされているため、主要穀物の自給は人々の生死を分ける最重要課題だ。
それを阻むのがストライガによる被害なのである。実際、被害規模は甚大で、アフリカ大陸全体にわたって5000万haもの農地がストライガの被害に遭っている。きわめて広大な農地が写真のようなピンクの花畑になってしまっているのだ。
これほどの大問題でありながら、ストライガはその名前すら日本でほとんど知られていない。アフリカでは多くの人々がストライガに苦しめられているというのに、だ。
ところが、今から3年前、ある研究者の研究成果から『魔女の雑草⏤ストライガ』の存在が新聞等で報じられ、ある程度、日本人の間でも知られるようになった。その研究成果は「ストライガ駆除のための画期的な分子、SPL7の発明」というものだった。この発明により、将来、ストライガを駆逐できる可能性が出てきたのだ。
そこで今回、我々WPI潜入チームは、発明者である名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の土屋雄一朗特任教授と森川彰特任講師にオンラインでのインタビューを試みることとした(依然、コロナ禍ゆえのオンライン取材。早く研究者に会いに行けるようになりたいものだ)。