俳優の三浦春馬さんが急逝して1年になる。ボイストレーナーとして7年、春馬さんを支えた斉藤かおるさんは、「いまだ傷が癒えず、答えを探し求めるファンの方に、寄り添うようなメッセージが届けられたら、私も結果的に癒されるかもしれない」と取材に応じてくださった。うかがった大事なエピソードを4回にわ

『天外者』レッスンの成果
昨年末には、斉藤さんも、春馬さんが主人公の五代友厚を演じた映画『天外者』を見た。
「共演者は輪郭の太い人ばかり。例えば、西川貴教さんは歌手だから声が出るし、キャラクターも強い。彼の存在感は、本読みの段階から、時代を動かす五代友厚のキャラクター作りにいい影響を与えたと思います。天外者の撮影は、演技上のキャッチボールを声色で深めることを、学んだ後でした。
春馬くんは、もともと茶目っ気もある繊細な人だから、そこを活かしつつ、役の太さと融合させて、五代としてしっかり存在していました。『よく考えたなあ、レッスンの成果が出ている』と思いました。声色の使い分けで、優しさや夫婦の愛、五代が変わった人だったというところも、よく表現しています。
春馬くんの演技は、表現が豊かで自然で、素晴らしかった。演技に関して、ダメ出ししたことは一度もありません。私のレッスンでは、彼の考えた表現を膨らませる、技術的な裏付けを勉強しました。
ある時、春馬くんは『緊張すると、お腹が悪くなっちゃう』と言っていました。その話を聞いて、お腹は、声と密接に関係があるので、どんなふうに腹から声を出すか練習しました。
例えば、『腹を立てる』というシーンで、言葉通り『内臓が縦になる』イメージで声を出すとどうなるか。息をどう吸うか。イメージ通り、演技したら説得性があるね、と。
春馬くんには、『具体的な方法があるんだ』と新鮮だったようです。そうしたレッスンがやみつきになって、『役として、生きる=息る、だね』と話していました。この教えは、五代が大勢の前で演説するシーンにも現れています」