8. 神話・歴史 ~創業年数では測れない、重厚な歴史~
8.神話・歴史 その価値に触れることは神話や夢を想起させ、長い時間と歴史の中に自身を位置づけることができる
戦後に生まれるこのホテルは、歴史と伝統ある存在とは言い難い。しかし、GHQの依頼でバイヤー専用の国有国営のホテルとして開業した「ホテルテート」がそのルーツ。やがて皇居外苑をのぞむ別格の立地から「アメリカ大使館事務所に」という動きもあった中、日本のプライドがそれを阻止をしたというドラマがあった。
かつて上皇后美智子様が、「皇室は祈りでありたい」と発言されたように、祈る事は皇室において生活に根差しているもの。まさしく日本の聖域と言うべきエリアに厳然と佇むホテルは、そうした祈りを間近に感じることができる。ここに宿泊すると、早朝、祈るような気持ちになれたりする。それは歴史や伝統以上の深淵なる意味を持つのではないだろうか。
9. 幸運・僥倖 ~ふわふわとした浮遊感~
9.幸運・僥倖 めったに得られない喜びを感じさせ、その幸運に感謝し、祝福したくなる。
このホテルを旅立った後にも、ある余韻が残る。それは、ふわふわとした浮遊感に近いもの。滞在している間中、体が感じている感覚だ。もし“幸せ”と言うものにエネルギーがあるならば、それは私たちの体をふわりと持ち上げるような感覚。
ビジネスの拠点であったパレスホテル東京が、2012年のリニューアル後、女性客が目に見えて増えたというのも、そのせいなのかもしれない。それこそ言葉にならないもの、でもその情動は体が覚えている。
10. 利他 ~クレームと、サプライズと、感動と~
10.利他 心づかいや他者への思いやりを醸成し、そのあらわれとして良い影響が周囲へと波及していく
繰り返しになるが、『フォーブス・トラベルガイド』では、900もの条件をクリア、日系ホテルで初めて5つ星を獲得し続けるという快挙を成し遂げた。でもだからこそ、期待値の大きさから、思いもよらないクレームが持ち込まれるのもまた事実。
世界中で月間平均約5億人が利用するトリップアドバイザーでも、ベストオブホテルに選ばれる一方、それでも星一つで辛辣なクレームを述べる匿名ユーザーもいる。年に数本ではあるけれど......。ただ、その一つ一つに、総支配人などから丁寧なお詫びと改善の約束を記した回答コメントがアップされている。
明快なマニュアルがないということで、スタッフ個人の判断に委ねられた部分があるからこそ、思わぬ失態もあるのだろう。ましてや「高級ホテルはどんな要求にも応え、どんなわがままも叶えてくれるところ」というちょっと傲慢な思い込みがあるからこそ、5つ星のホテルへの要求はさらにシビアなものとなるが、ホテルの宿命とは言え、サービスによる失敗は許されないというスタンスであることはその文面によく表れている。
今の時代、各企業が本当の意味の良心や正義感、人々を本気で幸せにしようという気概を持っているかどうか? そこを一般の人々が見極めるようになった。だからその、お詫びの文面が本物かどうかに注意深く目を向けるのだ。
そうしたことも含めて、JAXURY100アワード大賞受賞と考えていいのだろう。同時に、星5つをつける人が日本で最も多いホテルであることは、紛れもない事実なのだから。良いホテルは、必ず私たちの予想を超えてくる。この程度はやってくれるだろうという“この程度”を必ず超えてきて、様々な瞬間で小さなサプライズを積み上げ、星を重ねる。パレスホテル東京がそういうホテルであるのは間違いない。たとえクレームはあっても、予想超える感動が山ほどある。パレスホテル東京が、今まさに日本一行きたいホテルとなっている動かぬ証拠なのである。
www.palacehoteltokyo.com
PROFILE
齋藤薫(さいとう・かおる)
美容ジャーナリスト・エッセイスト。美容業界の第一人者にして、ファッションから社会現象までわたる幅広く深い視点と、常に磨かれ続ける美意識が、世代を超えて信頼支持されている存在。著書多数。